江戸怪談百物語 / 第59夜 / 本所・人形師

寄せ集めの人形

よせあつめのにんぎょう
灯芯とうしんを一本、消す。

内訳。右腕、市松人形より。左腕、御殿人形より。両脚、木彫りの操り人形より。顔、雛人形より。いずれも、壊れて捨てられていたものである。

本所の人形師、又平またへいが、これらを寄せ集めて、一体の大きな人形を作り上げた。腕は一つの人形から、脚は別の人形から、顔もまた別の人形から取った、いびつな作りだった。又平またへいがこれを作ったのは、若くして亡くなった一人娘の、遺していった壊れた人形たちを、どうしても捨てられなかったからだった。

仕掛け。糸を一本、背に通す。引けば、まるで自分の意志で動くように見える。又平またへいは、ただの興味として、この仕掛けを施した。ある晩、又平またへいが居眠りをしている間に、人形が糸なしで、自分の力で立ち上がったように見えた。又平またへいは驚いて飛び起きたが、人形は元の場所に、変わらぬ姿で立っていた。

摩耗の記録。又平またへいが年老いて、人形の関節を、久しぶりに手入れしようとしたとき、妙なことに気づいた。関節の擦れ方が、又平またへいが組み上げてから、まだ一度も動かしていないはずの部分にまで、長年動かされたような、なめらかな摩耗を見せていた。

結び。又平またへいは、その人形を、誰にも見せず、仕事場の奥に置き続けた。又平またへいが亡くなった後、弟子がその人形の関節を確かめてみたが、摩耗はさらに進んでいた。

弟子は、又平またへいの娘のことを知らず、それを捨てることも、直すこともできず、結局、師匠と同じように、誰にも見せずに、しまい続けている。

この話について
編者の後書き
人形の部品を「内訳」として列挙する目録形式で始め、以後も「仕掛け」「摩耗の記録」「結び」と小見出しめいた言葉で段落を区切る構成にした。組み立て図のような客観的な体裁が、最後には不気味な余白を残す。
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江戸怪談百物語 全99夜
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