妖怪は古い時代だけのものではないと思う。鉄道・トンネル・国道のような近代の工事現場にも、新しい怪異が生まれている。ここに書くのは、心霊スポットとして紹介されがちな話も含むので、噂と史実を特に注意して分けて書く。
史実:北海道の常紋トンネル(石北本線、1914年〈大正3年〉開通)は、「タコ部屋」と呼ばれる過酷な環境で働く労働者によって建設された。1970年、十勝沖地震の被害を受けた改修工事の際、トンネルの壁の中から立ったままの姿勢の人骨が見つかっている。これは、事故死では説明のつかない状態だったとされる。工事の安全を祈って人を生きたまま埋める「人柱」という古くからの風習が、実際に近代の工事でも行われていた可能性を示す、数少ない物的証拠のひとつとされている。
噂として語られていること:トンネル内での列車の急停車、心霊現象の目撃談などが、観光・オカルト系のメディアで多く紹介されている。これらは個人の体験談・都市伝説の域のものなので、史実とは分けて扱う。
私の見方:人柱という言葉を聞くと、つい古代の伝説だと思ってしまうけれど、常紋トンネルの例は、大正時代という近代の出来事。妖怪や怪異の話は、思っているよりずっと近い時代まで、現実の労働問題と地続きだったのだと思う。
史実:人柱は「人身御供」の一種で、堤防・橋・城などの大規模な建造物を築く際に、工事の無事や災害の防止を祈って人を犠牲にしたとされる風習。各地の城や堤防にまつわる伝説として、日本各地に類話が残っている。
私の見方:この台帳の「境界・道の妖怪」カテゴリに入っているぬりかべ・べとべとさんのような妖怪は、もともと峠道や夜道に伝わっていたもの。道路が舗装され、国道や高速道路に置き換わった後も、「出る場所」としての記憶だけが、心霊スポットという形に置き換わって残り続けているように見える。これは検証できる史実ではなく、あくまで私の見方にとどめておく。