天狗は全国区の妖怪図鑑記事を1本作っただけでは、地方ごとの濃さがまったく見えてこないと思ったので、山ごとに調べ直した。核になっているのは、謡曲『鞍馬天狗』や『天狗経』に名が挙がる「八大天狗(愛宕山太郎坊・比良山次郎坊・鞍馬山僧正坊・飯綱三郎・大山伯耆坊・彦山豊前坊・大峰前鬼坊・白峰相模坊)」。これは複数の古典・複数の紹介記事で一致している、比較的信頼度の高い系列だと思う。それに加えて、江戸中期の密教系の祈祷秘経『天狗経』に載る「四十八天狗」から、山と都道府県がはっきり特定できるものを追加した。ただし四十八天狗の側は、名前が地域集団名なのか個体名なのか判然としないものも多く、単一の紹介記事にしか出典を確認できていないものは「単一資料で確認」と表示している。
「〜坊」という名前は個体名というより、山に与えられた名前・その山の天狗集団の名前と捉えた方がいいらしい。ひとつの山に大天狗と無数の眷属がいて、その集団全体が「〜坊」と呼ばれている、というのが実態に近いようだ。
実際の日本白地図に、各都道府県庁所在地・山の緯度経度から計算した位置をプロットしています。各地点の名前・詳細は、下の一覧を参照してください。
八大天狗の筆頭・総帥格。全国の愛宕神社(約800社)で守護神として祀られる。安元3年(1177年)の京都大火「太郎焼亡」は太郎坊の仕業とされた。
複数の文献で確認牛若丸(源義経)に武術・兵法を教えたという鞍馬天狗。鞍馬寺の本尊の一つ「魔王尊」とも結びつけられる。謡曲『鞍馬天狗』に登場。
複数の文献で確認元は比叡山の大天狗だったが、延暦寺が創建され僧侶の法力が増したため比良山に移り住んだという。太郎坊と並ぶ大天狗とされる。
複数の文献で確認竹筒に入るほど小さい「管狐」を使う飯綱の法の祖。八大天狗の中でも珍しく、烏天狗の姿を今も残しているとされる。
複数の文献で確認元は鳥取県の伯耆大山の天狗。そこにいた相模坊が崇徳上皇の霊を慰めるため四国の白峰へ移った後任として、相模大山へ移り住んだという移動譚を持つ。
複数の文献で確認北九州随一の霊山・英彦山(彦山)の大天狗。修験道の一大拠点として知られる山を守護する。
複数の文献で確認役行者(役小角)に従った前鬼・後鬼の伝説と結びつく。大峰八大金剛童子が天狗とみなされたことに由来するという説がある。
複数の文献で確認保元の乱で敗れ配流された崇徳上皇の霊を慰めるため、相模大山から移り住んだという天狗。崇徳上皇自身が没後に大天狗になったとする説もある。
複数の文献で確認大山伯耆坊が相模大山へ移った後も、伯耆大山自体の天狗として語られる系統。大山信仰の中心地。
単一資料で確認修験道の始祖・役行者そのもの、あるいはその師とされる別格の大天狗。役行者ゆかりの霊山・石鎚山に座す。
複数の文献で確認『天狗経』四十八天狗の6番目。天狗研究家・知切光歳の天狗番付では「東の横綱」とされ、西の横綱・愛宕山太郎坊と並ぶ日本最高位の大天狗の一角とされる。富士山本宮浅間大社の元宮とされる村山浅間社(静岡県富士宮市)には、その姿を描いたとされる「高鉢権現図」が伝わる。中世に富士山大宮司を務めた富士氏の当主に「富士太郎直包」「富士太郎昌清」という実在の人名があり、後世の修験者がこれと天狗伝承を結びつけたのではないかとも推定されている。江戸期の富士講信仰では絶大な知名度を誇ったが、明治以降は各地の浅間社でこの天狗が語られることが少なくなったという。静岡県御殿場市の富士山中腹(標高1,300〜1,500m)には「太郎坊」という地名が今も残り、これは明治初期、須走口で祀られていた天狗太郎を御殿場口に移して祀った祠にちなむ。
複数の文献で確認富士山太郎坊と対をなし、富士山の北側(山梨県側)を守護するとされる大天狗。富士山五合目付近にある小御岳神社(富士山吉田口五合目)に祀られる。表富士(静岡側)の太郎坊と、裏富士(山梨側)の正真坊は、互いに交流することがあまりないと伝わる、珍しい表裏の対構造を持つ。
単一資料で確認火防(ひぶせ)の神として知られる秋葉山の天狗。飯縄系の天狗と同様、烏天狗の姿を残すとされる。
複数の文献で確認日光連山を守護する大天狗。日光の山岳信仰と結びつく。
単一資料で確認出羽三山のひとつ、羽黒山の大天狗。出羽三山の修験道信仰と結びつく。
単一資料で確認奇岩で知られる妙義山の大天狗。上州の山岳信仰の拠点。
単一資料で確認関東平野にそびえる筑波山の大天狗。古くから山岳信仰の対象とされてきた。
単一資料で確認日本三名山(立山・富士山・白山)のひとつ、立山の大天狗。立山信仰・地獄谷の伝承とも関わりが深い。
単一資料で確認弘法大師空海が開いた高野山の大天狗。真言密教の聖地を守護する。
単一資料で確認熊野那智大社・那智の滝を舞台にする天狗。鬼が苦行を積んで大天狗になったという、天狗としては珍しい由来を持つ。
単一資料で確認こんぴら参りで知られる象頭山の天狗。海の守り神・金毘羅信仰とも結びつく。
単一資料で確認厳島神社のある宮島の天狗。追帳鬼神・魔羅鬼神・時眉鬼神という三体の鬼神が率いる集団とされる。
単一資料で確認