本所のある家に、長患いの病人、清兵衛がいた。雨の晩、清兵衛の枕元に、一匹の蝸牛が現れ、ゆっくりと、枕の上を這っていった。病人の家族は、それを気味悪がって、蝸牛を庭に捨てた。翌晩も、同じ蝸牛らしきものが、枕元に現れた。
清兵衛には、遠く離れた土地に嫁いだ、腹違いの妹がいた。長年、折り合いが悪く、二人は何十年も会っていなかった。近所の物知りが、蝸牛を「想いを運ぶ使い」だと教えてくれた。
清兵衛は、蝸牛が這っていく先を、じっと見ていた。蝸牛は、枕元から、清兵衛が長年しまい込んでいた、古い文箱の方へと這っていった。文箱には、妹からの、もう何十年も前の文が、開けられずに入っていた。清兵衛は、その文を、ようやく開けてみる気になった。
文には、妹が、折り合いの悪さを詫びる言葉が、丁寧に書かれていた。清兵衛は、それを、これまで一度も読んでいなかったことに気づいた。読まないまま、恨みだけを抱え続けていたのだった。
家族が、遠方の妹の様子を尋ねに人を送ると、妹もまた、同じ頃に病に倒れていたことが分かった。
その後、清兵衛と妹は、互いの病が治るのを待って、久方ぶりに、和解のための再会を果たした。