春。竹の種が、老人の手で植えられる。かぐや姫が、月へ帰る前夜、こっそりと渡した種だった。「これを植えれば、また会えます」
夏。竹は、まだ小さい。老人は、毎晩、竹林に出て、語りかける。今日はこんなことがあった、と、他愛のない一日の出来事を聞かせるだけだった。
秋。竹は、大きく育ち始める。だが、光ることは、まだ一度もない。
冬。老人は年老いていく。それでも、毎晩の語りかけをやめない。何年もかけて、竹は大きく育ったが、光る気配はなかった。
また春。老人が亡くなる直前、その竹が、初めて一晩だけ、淡く光った。近くにいた者が見た光は、地面から見上げると、ただの淡い光だったが、たまたま竹の上に登っていた近所の子供が、上から見下ろすと、光の形が、人の横顔のように見えることに気づいた。月に見えるという、あの模様と、同じ向きの横顔だった。
またの春、またの夏。
村の者たちは、その光を、老人の最後の願いが叶った証だと語り継いでいる。だが、実際にその横顔を見たのは、あの子供だけで、地面にいた大人たちは、ただの淡い光としか見ていない。
娘からの返事は、老人に向けてではなく、月と同じ高さから見た者にだけ、届くように仕組まれていたのかもしれない。