浅草の藪の内に、蝙蝠を集めて薬種問屋に卸す仕事をしている男、市松がいた。ある晩、市松が蝙蝠の巣穴を覗くと、蝙蝠たちが、人の言葉で、何かを話し合っているように聞こえた。
耳を澄ませると、どうやら、市松の身の上について、好き放題に噂しているらしかった。「あの男、また同じ着物だな」「嫁が来ないのも無理はない」市松は、腹を立てて、「お前たちに、そんなことを言われる筋はない」と言い返した。蝙蝠たちは、一瞬静まったが、しばらくして、また鳴き始めた。今度は、もっと小さな声で、こそこそと。
市松は、これでは仕事にならないと思い、ある日、思い切って、自分の身の上話を、先に全部話してしまうことにした。「どうだ、これで、もう噂する種もないだろう」蝙蝠たちは、拍子抜けしたように、しばらく静かになった。だが、数日後には、今度は市松の話し方の癖について、また噂を始めていた。
市松は、諦めて、蝙蝠たちの噂を、日々の賑やかしとして受け入れることにした。
一人暮らしの侘しさが、蝙蝠のおかげで、少しだけ紛れているのも、事実だったからである。