両国の夜道で、複数の提灯持ちが連れ立って歩くことがあった。ある晩、提灯持ちの一人、市兵衛が、自分の提灯の灯りだけが、他の誰の提灯よりも、微妙に違う色をしていることに気づいた。
仲間に指摘しても、誰もその違いに気づかない。市兵衛は、それを自分だけの目の錯覚だと思っていたが、灯りの色は、決まった夜にだけ、決まったように変わる。雨の前の晩、満月の晩、何かの前触れの晩。市兵衛は、その規則を見つけようと、幾年も、色が変わった夜を記録し続けた。
だが、どれだけ記録を重ねても、はっきりした規則は見えてこなかった。ある夜には当てはまる説が、次の夜には当てはまらない。市兵衛は、灯りの色の意味を、結局、一度も解き明かせなかった。
それでも、市兵衛は、灯りの色が変わるたびに、少しだけ気を張るようになった。理由が分からないからこそ、油断できない。市兵衛は、灯りの色の正体を、生涯、追いかけ続けることになるのだろう。息子には、「分からないことは、分からないままでいい。
ただ、気を張ることだけは、続けなさい」と言い残すつもりでいる。