蝋燭の丈、貸した晩から、測り直してみる。
両国で提灯を貸す商いをしている店に、ある客が、提灯を借りたまま、長く返しに来なかった。店主の弥七は、貸し賃を諦めて、それきりにしていた。
丈、変わらず。
幾年か経ったある晩、その提灯が、誰も持ってきた様子もなく、店先に、そっと置かれているのを見つけた。灯りは消えていたが、まだ新しいろうそくが、中に入っていた。提灯そのものは、貸した時と、まったく変わらない姿をしていた。何十年も外に置かれていたはずなのに、傷みも汚れもない。
蝋燭の丈、灯してみる。
弥七は、念のため、灯りをつけて、燃え具合を確かめてみた。蝋燭は、貸した晩に灯した分の丈だけが、きっちり短くなっていた。この蝋燭は、貸した最初の晩、一晩だけ使われて、それ以降は、一度も灯されていないことになる。
丈と、傷みの差、測れず。
弥七は、それがどういうことか、しばらく分からなかった。あの客は、借りたその晩のうちに、どこかへ行ってしまったのだ。提灯だけが、その一晩の記憶のまま、何十年もの時を、そのままの姿で運ばれてきた。
丈、今夜も測る。
弥七はそれ以来、貸し出す提灯の一本一本に、少しだけ丁寧に灯りを入れるようになった。
誰の手に渡っても、いつか、こうして戻ってくることがあるのかもしれないと、弥七は思うようになっている。