青梅の若い樵、辰蔵が、ある夜、村の女房たちが皆、森の奥で秘密の集まりを持っているという噂を聞いた。辰蔵は自分の女房も、その集まりに加わっているのではないかと疑い、夜、こっそり森に入って確かめてみることにした。
森の奥には、たしかに火が焚かれ、村の女たちが集まっていた。辰蔵は木の陰から覗いたが、火を囲む女たちの影の中、一人だけ、他の誰よりも頭一つ大きく、白髪が異様に長く伸びているように見えた。辰蔵はそれを気のせいだと思おうとしたが、目を離せなかった。
辰蔵は恐ろしくなって家に帰り、それ以来、女房を、以前とは違う目で見るようになった。数年後、辰蔵はようやく、女房に問いただした。女房は笑って、「あれは、ただの繕い物の集まりですよ。ただ、この村の女たちの間には、山姥様に見守っていただく、という古い作法が残っているだけです」と言った。
辰蔵は、女房が「山姥様」と口にしたとき、その声の調子が、母を亡くしてから一度も聞いたことのない、誰かに教わるような、柔らかい響きをしていたことに気づいた。辰蔵自身は、母を知らずに育ち、そういう声で誰かに何かを教わったことがなかった。
辰蔵は、女房の声の中に、自分には入れない場所があることを、その響きだけで悟った。