飛ぶ先、銀色の花。花、並ぶ。並び、道筋になる。沼の深さ、避ける形。
武蔵野の田畑で、道に迷った旅人が、一匹の蜻蛉に導かれるように、正しい道へ戻れたという話が、いくつも伝わっている。この土地では、そうした導きをする小さな生き物を、まとめて「御先(おさき)」と呼ぶことがあった。ある旅人、宗助が、それを試しに、道に迷ったふりをして、蜻蛉が本当に御先として導いてくれるか確かめてみた。蜻蛉は、たしかに宗助の前を、ゆっくりと飛び続けた。宗助がついていくと、思った通りの道に出た。
花、色を確かめる。
宗助は、この蜻蛉が、いつも同じ色をした、珍しい銀色の羽をしていることに気づいた。数年後、宗助は、同じ沼地の近くで、その銀色の羽と同じ色をした花が、一列に並んで咲いているのを見つけた。
花、道筋をたどる。
花の並びをたどっていくと、それは、沼の深いところを避けて、安全な場所だけを通る、一本の道筋になっていた。
正体、花だったのか。
宗助は、あの蜻蛉が、実は毎年、この花の色を頼りに沼を渡っていただけで、蜻蛉自身が、道を知っていたわけではなかったのかもしれないと思うようになった。御先と呼ばれていたものの正体は、蜻蛉でも神通力でもなく、花の並びそのものだったのかもしれない。それでも、宗助は、蜻蛉を見かけるたびに、礼を言うことをやめなかった。
花の並びを教えてくれたのも、結局は、この蜻蛉だったからだ。