拍子、書き取る。比較、経文。「執着を離れよ」の一節。拍子、一致。
越後のある家に、鶴を助けたことがきっかけで、機を織る美しい娘が嫁いできたという言い伝えがあった。娘はある日、自分の正体を明かされ、鶴の姿になって飛び去ったとされている。娘が去った後、その家では、毎年決まった季節に、誰も織っていないはずの機の音が、夜通し聞こえるようになった。
拍子、僧に依頼。
夫は、年老いてから、旅の僧に、その機の音の調子を、拍子として書き取ってもらったことがある。僧は書き取った拍子を見て、驚いた顔をした。「これは、ある経文の一節と、拍子がまったく同じです。執着を離れよ、という意味の一節です」
拍子、意味を知る。
夫は、その僧の言葉を聞いて、長い間かけていた思い違いに気づいた。娘の正体を見てしまった夜、自分が声を上げなければ、娘はまだここにいたのではないかと、夫は長年悔やんでいた。だが、機の音が伝えていたのは、恨みでも未練でもなく、夫にもう自分を追わないでほしいという、娘からの最後の言葉だったのかもしれない。
拍子、今も続く。
音が聞こえる年は、必ず豊かな年になるという。家の者たちは、その夜だけは、機屋に近づかず、そっと音だけを聞くようにしている。
夫が亡くなった年の冬、機の音は、いつもより長く、夜明けまで続いたと伝えられている。