葉の色、青。妻の熱、上がる。葉の色、紅。葉脈、道筋の形。
高尾山の紅葉狩りに出かけた若い夫婦が、山中で、一枚だけ、季節外れの青い紅葉の葉を見つけた。妻はそれを面白がって、持ち帰り、文箱にしまっておいた。その年の冬、妻は病に倒れた。夫が、看病の合間、ふと文箱を開けると、あの青い葉は、いつのまにか、鮮やかな紅色に変わっていた。
葉の色、また変わる。
妻の熱が一番高かった晩、夫は文箱を開け、葉に向かって、初めて声をかけた。「頼む、色を変えてくれ」葉の色は、その晩から、少しずつ、青みを取り戻していった。妻は、その冬を越え、翌年の春には、すっかり回復した。
葉脈、確認。
夫は、ある日、灯りに透かして、その葉の葉脈をよく見てみた。葉脈の枝分かれの形が、ちょうど、自分たちの家から、妻がかかった医者の家までの道筋と、同じ曲がり方をしていることに気づいた。
葉脈、道しるべ。
夫は、それが偶然なのか、葉が本当に、道筋そのものを覚えていたのか、確かめる術を持たなかった。
夫婦は毎年、紅葉の季節になると、あの葉の色と、葉脈の道筋を、二人だけの習いとして確かめている。