記録、一。櫛。記録、二。簪。記録、三。帯締め。記録、四。白粉入れ。
神田の小間物屋に、ある晩、若い女が駆け込んできて、「先ほど忘れ物をしたので」と、店の隅に置かれた小さな包みを取っていった。店主の藤兵衛は、そんな客が来たことを覚えていなかったが、女はすでに慣れた様子で、包みのある場所を知っていた。藤兵衛の女房が、その女の顔を見て、藤兵衛の亡くなった先妻とよく似ていることに気づいた。
記録を続ける。女房は、女が取っていった品を、来るたびに、そっと帳面に書き留めるようになった。
記録、揃う。
何年か経って、書き留めた品を並べてみると、嫁入り道具の一式が、少しずつ、順番に揃っていくのが分かった。先妻は、藤兵衛のもとに嫁ぐ前に亡くなっており、本当の婚礼の道具を、一度も持てなかったのだという。
記録、五から。
女房は、それに気づいてから、店の隅に置く包みを、自分でも少しずつ用意するようになった。先妻の代わりに、嫁入り道具を、一つずつ、整えてやっているつもりだった。それからも、月に一度、女は店に現れる。
女房は、その晩だけは、店の隅に、必ず小さな灯りを灯しておくことにしている。