この村には、いくつかの触ってはならぬものがある。裏山の古井戸。村外れの一本杉。そして、辻堂の、首のない地蔵。
品川の外れの辻堂に、首のない地蔵が祀られていた。いつ首が失われたのか、村の誰も覚えていない。ただ、この地蔵には、「首を探してはいけない」という言い伝えがあった。
ある若者、伊助が、その言い伝えを馬鹿にして、地蔵の首を探し出し、元に戻してやろうと思いついた。伊助は、生まれつき体の弱い弟がいて、この地蔵に願をかければ、弟の体が丈夫になるという話を聞いていた。首を戻せば、もっと大きな願いも叶うのではないかと、伊助は考えた。
伊助は近隣を掘り返し、地蔵の首らしき石を見つけ出した。だが、掘り出した石は、妙に角が取れておらず、苔の付き方も浅かった。伊助はそれを気にせず、首を地蔵の胴に載せようとした。その瞬間、辻堂の周りが、急に静まり返った。伊助は恐ろしくなって、首を置いたまま、逃げるように家に帰った。
翌朝、首は元の場所からなくなっていた。村の古老に、掘り出した石の妙な新しさのことを話すと、古老は少し困ったように笑った。「あれは、村の者が、探す者のために、わざと近くに埋めておいた石じゃ。本当の首は、もっと深いところにある」
伊助は、自分が見つけたはずの答えが、最初から用意された偽りだったことを知った。裏山の古井戸も、村外れの一本杉も、きっと同じ仕組みなのだろう。
この村には、いくつかの触ってはならぬものがあり、そのすべてに、こうした二重の守りがあるのかもしれない。