色合わせ、一。詫びの布、紅。色合わせ、二。染物屋の見本帖、同じ紅。色合わせ、三。その染物屋、五十年前に廃業。
王子の稲荷の近くに住む若者、宇吉が、ある夜、遠くの畑道に、提灯の連なる行列を見た。狐火だと知っていたが、宇吉は面白がって、後をつけてみることにした。行列は、稲荷の裏手にある小さな祠まで続いていた。宇吉が覗くと、そこには、狐たちが人の姿になって、婚礼の儀式を行っているのが見えた。
宇吉は、あまりの美しさに見入ってしまい、思わず声を上げてしまった。狐たちは一斉にこちらを向き、宇吉は恐ろしくなって逃げ出した。翌朝、宇吉は熱を出して寝込んだが、幾日か経つと、床の間に、見覚えのない紅い布が置かれているのに気づいた。宇吉の母が、それを見て、「狐に見られたお詫びの品じゃろう」と言った。
色合わせ、比較。
何年か後、宇吉の娘が嫁ぐ日、その布を持たせようとした際、布を染物屋に見せる機会があった。染物屋の主人は、その紅色を見て、驚いた顔をした。「これは、王子の外れにあった、一軒の染物屋だけが使っていた色です。その店は、もう五十年も前に、店主が急に姿を消して、なくなっています」
色合わせ、結論。
宇吉は、あの晩の狐たちが、人の姿になって暮らしていた頃、実際にどこかで店を構えていたのではないかと思うようになった。
布は、狐たちが、人として生きていた証だったのかもしれない。