蝶が、花の周りを飛ぶ。何年も。普通より長く。
庭師の久造が、それに気づく。
手のひらに、蝶が止まる。久造は、亡き妻の好きだった花の名を、長い間忘れていた。蝶が止まる花を、なんとなく、その花のように思う。
蝶が、動かなくなる。
久造は、根元に埋める。その場所の花だけ、早く咲く。
久造は、庭の記録を、長年、帳面につけている。花の名を、確かめる。忘れていた妻の名の一字と、同じ読みだった。
無意識に、その花を、庭の一番目立つ場所に、植え続けていた。妻の名を、花の名に紛れさせて、庭に残していたのは、久造自身だった。
毎年、その花が咲く日。久造は、静かに祝う。妻の忌日のように。