日本橋の呉服屋に、三人の娘がいた。この店には、代々、座敷童子が住んでいるという言い伝えがあった。姿を見た者はいないが、店の隅の畳が、誰もいないのに、時折くぼんでいることがあった。父はいつも、「あれがいる限り、店は傾かない」と言っていた。
父が亡くなり、店の先行きを決める話になったとき、長女は店を守ろうとし、次女は店を売って旅に出ようとし、三女はどちらにも強くは言えなかった。長女には、密かに、店を継ぐことで、父に認めてもらいたかった、という思いがあった。議論は幾晩も荒れ、声を荒立てる夜が続いた。
そんな夜が続いたある朝、店の者が、畳のくぼみが、もう何日も現れていないことに気づいた。三女がぽつりと言った。「お父つぁんが本当に望んでいたのは、店でも旅でもなく、私たちが仲良くしていることだったんじゃないかしら」結局、店は長女が継ぎ、次女は旅に出た。
三人が久しぶりに笑い合って店に集まった晩、隅の畳が、静かにくぼんでいた。長女がその場に膝をつき、くぼみに、そっと手を当ててみた。温かかった。畳のはずなのに、誰かが今しがたまで座っていたような、確かな温かさだった。
長女は、それを誰にも言わず、ただ、微笑んだ。