江戸怪談百物語 / 第21夜 / 浅草・影絵師

影の分だけ

かげのぶんだけ
灯芯とうしんを一本、消す。

清三郎せいざぶろうは、灯りの前に紙人形をかざす。影は、壁の上で動く。それが、清三郎せいざぶろうの芸だった。

浅草で影絵を見せる小屋を営む清三郎せいざぶろうの芸は評判が良く、いつも小屋は賑わっていた。人形の動かし方の滑らかさに、清三郎せいざぶろうの芸の特徴があった。武者の戦う場面も、恋物語の切ない場面も、清三郎せいざぶろうの手にかかると、まるで生きているように見えた。

清三郎せいざぶろうは、灯りを見る。

影は、清三郎せいざぶろうを見ているのかもしれない。

ある晩、興行を終えた清三郎せいざぶろうが、道具をしまいながら、壁に映る自分の影に目を留めた。灯りは一つしかないはずなのに、影が二つに分かれて映っている。灯りの位置を確かめても、どう見ても一つしかない。それでも、壁の影は、まるで二人の清三郎せいざぶろうが並んで立っているかのようだった。

清三郎せいざぶろうは動く。影は、少し遅れて動く。

その日から、興行中にも、時折、自分の意図しない動きを、影の人形がすることがあるようになった。客はそれを、新しい趣向だと喜んだが、清三郎せいざぶろう自身には、身に覚えのないことだった。

清三郎せいざぶろうは、灯りを消さずに、自分の影と向き合った。影は、動かなくても、ゆっくりと動き始めた。手を挙げ、合図をするように振ってみせた。「お前は、誰だ」影は答えない。ただ、ゆっくりと、壁を這うように近づいた。清三郎せいざぶろうは灯りを消して、逃げるように離れた。

清三郎せいざぶろうの影絵は、以前よりも評判になった。動いているのが、本当に自分の意図した動きなのか、清三郎せいざぶろうにはもう分からなくなっている。

ある晩、弟子が興行の後片付けをしながら、灯りを消す直前の清三郎せいざぶろうの顔を、初めてまともに見た。師の顔は、笑っているようで、少しだけ怖がっているようでもあった。弟子はそれを見て、いつか自分が師の座に立つ日、同じ顔をするのだろうと悟った。

清三郎せいざぶろうの影絵は、今夜もまた、壁の上で静かに動き続けている。

この話について
編者の後書き
「清三郎せいざぶろうは動く。影は動く」という対句を繰り返し挟み、本人と影の動きを並走させる構成にした。誰が誰の影なのか、文の対称性自体で分からなくさせる試みである。
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