清三郎は、灯りの前に紙人形をかざす。影は、壁の上で動く。それが、清三郎の芸だった。
浅草で影絵を見せる小屋を営む清三郎の芸は評判が良く、いつも小屋は賑わっていた。人形の動かし方の滑らかさに、清三郎の芸の特徴があった。武者の戦う場面も、恋物語の切ない場面も、清三郎の手にかかると、まるで生きているように見えた。
清三郎は、灯りを見る。
影は、清三郎を見ているのかもしれない。
ある晩、興行を終えた清三郎が、道具をしまいながら、壁に映る自分の影に目を留めた。灯りは一つしかないはずなのに、影が二つに分かれて映っている。灯りの位置を確かめても、どう見ても一つしかない。それでも、壁の影は、まるで二人の清三郎が並んで立っているかのようだった。
清三郎は動く。影は、少し遅れて動く。
その日から、興行中にも、時折、自分の意図しない動きを、影の人形がすることがあるようになった。客はそれを、新しい趣向だと喜んだが、清三郎自身には、身に覚えのないことだった。
清三郎は、灯りを消さずに、自分の影と向き合った。影は、動かなくても、ゆっくりと動き始めた。手を挙げ、合図をするように振ってみせた。「お前は、誰だ」影は答えない。ただ、ゆっくりと、壁を這うように近づいた。清三郎は灯りを消して、逃げるように離れた。
清三郎の影絵は、以前よりも評判になった。動いているのが、本当に自分の意図した動きなのか、清三郎にはもう分からなくなっている。
ある晩、弟子が興行の後片付けをしながら、灯りを消す直前の清三郎の顔を、初めてまともに見た。師の顔は、笑っているようで、少しだけ怖がっているようでもあった。弟子はそれを見て、いつか自分が師の座に立つ日、同じ顔をするのだろうと悟った。
清三郎の影絵は、今夜もまた、壁の上で静かに動き続けている。