武蔵野の田畑に立つ、古いかかしがあった。ある農夫、源治が、日照りの続く夏、かかしに向かって、半ば冗談で、「雨を降らせてくれたら、お前を新しくしてやる」と話しかけた。
その晩、たしかに雨が降った。だが、翌年もまた日照りが続いたとき、源治が同じように話しかけても、何も起こらなかった。源治は腹を立てて、「去年は約束を守ったのに、今年は何もしないのか」と、かかしに詰め寄った。
すると、その晩、今度は雹が降った。田畑は少々傷んだが、源治は、かかしが「注文が雑すぎる」と言い返してきたのだと解釈した。翌年、源治は今度こそ丁寧に、「今年もどうか、程よい雨をお願いします」と、頭を下げて頼んでみた。
その晩、ちょうどよい降り方の雨が、三日続いた。源治は、かかしとの付き合い方に、ようやく慣れてきたと感じている。近所の農夫たちは、源治が毎年、かかしに向かって、こまごまと注文をつけている姿を見て、笑い半分、感心半分で眺めている。
かかしは、今も、田畑の真ん中で、何を要求されても涼しい顔をして立っている。