江戸怪談百物語 / 第68夜 / 武蔵野・田畑

かかし問答

かかしもんどう
灯芯とうしんを一本、消す。

武蔵野の田畑に立つ、古いかかしがあった。ある農夫、源治げんじが、日照りの続く夏、かかしに向かって、半ば冗談で、「雨を降らせてくれたら、お前を新しくしてやる」と話しかけた。

その晩、たしかに雨が降った。だが、翌年もまた日照りが続いたとき、源治げんじが同じように話しかけても、何も起こらなかった。源治げんじは腹を立てて、「去年は約束を守ったのに、今年は何もしないのか」と、かかしに詰め寄った。

すると、その晩、今度は雹が降った。田畑は少々傷んだが、源治げんじは、かかしが「注文が雑すぎる」と言い返してきたのだと解釈した。翌年、源治げんじは今度こそ丁寧に、「今年もどうか、程よい雨をお願いします」と、頭を下げて頼んでみた。

その晩、ちょうどよい降り方の雨が、三日続いた。源治げんじは、かかしとの付き合い方に、ようやく慣れてきたと感じている。近所の農夫たちは、源治げんじが毎年、かかしに向かって、こまごまと注文をつけている姿を見て、笑い半分、感心半分で眺めている。

かかしは、今も、田畑の真ん中で、何を要求されても涼しい顔をして立っている。

この話について
編者の後書き
かかしへの願掛けを、亡父の形見かたみという重い意味づけから外し、注文の付け方をめぐる痛快な交渉ごととして書き直した。人間の側が学び、かかしが涼しい顔で応じ続ける、という力関係の面白さを主題にしている。
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江戸怪談百物語 全99夜
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