江戸怪談百物語 / 第55夜 / 上野・鴉塚

鴉の遺言

からすのいごん
灯芯とうしんを一本、消す。

又造家、家伝。一、鴉の羽を見つけたら、必ず持ち帰ること。二、持ち帰った羽は、捨てずに集めておくこと。三、理由は、問わぬこと。

上野の山に、鴉塚と呼ばれる小さな塚があった。昔、一羽の年老いた鴉が、山伏やまぶしに助けられた恩を忘れず、山伏やまぶしが亡くなるまで、その身の回りを世話し続けたという言い伝えがある。

又造の父も猟師で、若い頃、この塚のあたりで、大怪我をして動けなくなったことがあった。父はそのとき、鴉が鳴き続けて人を呼んでくれたおかげで、命を助けられたと語っていた。又造は、その話を、子供の頃の作り話だと思って聞いていた。

家伝、続き。

又造の家には、代々、この習いが伝わっていた。理由も知らずに続けていたその習いを、又造はある日、集めた羽を並べて、床に置いてみた。羽の並びは、自然にできた形ではなく、はっきりとした一本の道筋みちすじを描いていた。それは、父が命を助けられたという、塚から里までの、山道の形と、正確に一致した。

家伝、追記。

又造は、代々の家族が、知らずに、あの日の道筋みちすじを、羽を並べる形で、書き残し続けていたのだと悟った。この家伝には、四つ目の項がある。四、道筋みちすじが完成したら、それを、次の代に見せること。

又造は、それを初めて、息子に見せることにした。

この話について
編者の後書き
家に伝わる古い習いを「家伝、一、二、三」という条文形式で示し、最後にもう一つの項を発見する構成にした。理由を問わない家訓が、最終的に一つの地図として完成する構造にしている。
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