又造家、家伝。一、鴉の羽を見つけたら、必ず持ち帰ること。二、持ち帰った羽は、捨てずに集めておくこと。三、理由は、問わぬこと。
上野の山に、鴉塚と呼ばれる小さな塚があった。昔、一羽の年老いた鴉が、山伏に助けられた恩を忘れず、山伏が亡くなるまで、その身の回りを世話し続けたという言い伝えがある。
又造の父も猟師で、若い頃、この塚のあたりで、大怪我をして動けなくなったことがあった。父はそのとき、鴉が鳴き続けて人を呼んでくれたおかげで、命を助けられたと語っていた。又造は、その話を、子供の頃の作り話だと思って聞いていた。
家伝、続き。
又造の家には、代々、この習いが伝わっていた。理由も知らずに続けていたその習いを、又造はある日、集めた羽を並べて、床に置いてみた。羽の並びは、自然にできた形ではなく、はっきりとした一本の道筋を描いていた。それは、父が命を助けられたという、塚から里までの、山道の形と、正確に一致した。
家伝、追記。
又造は、代々の家族が、知らずに、あの日の道筋を、羽を並べる形で、書き残し続けていたのだと悟った。この家伝には、四つ目の項がある。四、道筋が完成したら、それを、次の代に見せること。
又造は、それを初めて、息子に見せることにした。