江戸怪談百物語 / 第80夜 / 本所・縁の下

蟻の行列

ありのぎょうれつ
灯芯とうしんを一本、消す。

本所の長屋の縁の下で、蟻の行列が、いつまでも同じ場所を回り続けているのを、子供が見つけた。子供が行列を崩してみても、蟻たちは、すぐに元の輪を作り直した。

近所の子供たちは、これを面白がって、代わる代わる行列を崩しに来るようになった。蟻たちは、崩されるたびに、前よりも早く、輪を作り直すようになった。まるで、子供たちとの競争を、楽しんでいるかのようだった。

ある日、一番負けん気の強い子供が、「今日は絶対に直させない」と意気込んで、行列の上に、大きな石を置いてしまった。翌朝、石をのけてみると、蟻たちは、石の周りを、大きく迂回する、前よりも複雑な形の輪を、作り上げていた。

子供たちは、それを見て、すっかり蟻たちに一本取られた気持ちになった。それ以来、子供たちは、蟻の行列を崩すのをやめ、代わりに、行列がどんな形になるか、毎朝観察するのを、新しい遊びにするようになった。

長屋の縁の下では、今日も、子供たちと蟻たちの、静かな知恵比べが続いている。

この話について
編者の後書き
忘れられた死者の記憶という重い主題から離れ、子供たちと蟻の知恵比べという、無邪気な遊びの話に変えた。競争と工夫の面白さそのものを、結末の軸にしている。
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江戸怪談百物語 全99夜
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