江戸怪談百物語 / 第50夜 / 麻布・婚礼こんれい行列

消えた花嫁

きえたはなよめ
灯芯とうしんを一本、消す。

先頭、提灯ちょうちん持ち。次いで、仲人夫婦。次いで、花嫁の乗った駕籠かご。次いで、荷物持ちの一団。最後尾、新郎、宗助そうすけ。

麻布のある家で、この順で組まれた婚礼こんれいの行列が、嫁ぎ先へ向かう途中、峠道で急に消えてしまうという出来事があった。付き添いの者たちが慌てて探し回ったが、花嫁の乗った駕籠かごだけが、道の真ん中に、忽然と残されていた。

宗助そうすけは、諦めずに峠を探し歩いた。宗助そうすけ自身、幼い頃、一度だけ山で迷ったことがあり、その恐ろしさを、よく覚えていた。だからこそ、花嫁の恐怖が、他人事とは思えなかった。

三日目の晩、峠の地蔵の前で、宗助そうすけはついに花嫁を見つけた。花嫁は、地蔵の前に座り込み、静かに涙を流していた。花嫁は、嫁ぐことへの恐れと迷いのあまり、無意識に駕籠かごを抜け出し、峠を歩いていたのだという。「歩いている間、誰かに手を引かれているような気がしたのです」

宗助そうすけが花嫁を家に連れ戻したとき、付き添いの女が、花嫁の足袋を脱がせて、驚いた顔をした。三日間、雨に濡れた山道を歩いたはずなのに、足袋は、乾いたまま、汚れも滲みもなかった。

行列は、後日、順を整えて、もう一度組まれた。先頭、提灯ちょうちん持ち。次いで、仲人夫婦。次いで、花嫁の乗った駕籠かご。今度は、宗助そうすけが、駕籠かごのすぐそばを歩いた。

誰にも、二度と、花嫁を一人にはさせないという、無言の意志だった。

この話について
編者の後書き
婚礼こんれい行列の並び順を目録として提示し、最後にもう一度その並びを繰り返して閉じる構成にした。最初の行列と、やり直された行列の違い(宗助そうすけの位置)だけで、変化を語っている。
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江戸怪談百物語 全99夜
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