先頭、提灯持ち。次いで、仲人夫婦。次いで、花嫁の乗った駕籠。次いで、荷物持ちの一団。最後尾、新郎、宗助。
麻布のある家で、この順で組まれた婚礼の行列が、嫁ぎ先へ向かう途中、峠道で急に消えてしまうという出来事があった。付き添いの者たちが慌てて探し回ったが、花嫁の乗った駕籠だけが、道の真ん中に、忽然と残されていた。
宗助は、諦めずに峠を探し歩いた。宗助自身、幼い頃、一度だけ山で迷ったことがあり、その恐ろしさを、よく覚えていた。だからこそ、花嫁の恐怖が、他人事とは思えなかった。
三日目の晩、峠の地蔵の前で、宗助はついに花嫁を見つけた。花嫁は、地蔵の前に座り込み、静かに涙を流していた。花嫁は、嫁ぐことへの恐れと迷いのあまり、無意識に駕籠を抜け出し、峠を歩いていたのだという。「歩いている間、誰かに手を引かれているような気がしたのです」
宗助が花嫁を家に連れ戻したとき、付き添いの女が、花嫁の足袋を脱がせて、驚いた顔をした。三日間、雨に濡れた山道を歩いたはずなのに、足袋は、乾いたまま、汚れも滲みもなかった。
行列は、後日、順を整えて、もう一度組まれた。先頭、提灯持ち。次いで、仲人夫婦。次いで、花嫁の乗った駕籠。今度は、宗助が、駕籠のすぐそばを歩いた。
誰にも、二度と、花嫁を一人にはさせないという、無言の意志だった。