深川の外れに、埋め立てが進む沼地があった。人足たちの間で、ここでは夜になると、埋め立てた土の下から、誰かの唸り声が聞こえるという噂があった。人足の一人、六平には、若くして流行り病で亡くした息子がいた。息子の唸るような咳の音を、六平は今も忘れられずにいた。
ある晩、六平は残業をして、一人で沼地に残った。地面の下から、低い唸り声が聞こえてきた。六平は耳を澄ませ、その声に応えるように、鍬で地面を叩いてみた。翌朝、六平は、他の人足たちに、昨夜のことを興奮した様子で話した。誰も、六平の話をまともに聞かなかった。
ある晩、仲間の一人が、様子を見に来て、六平の傍らに座った。何も言わず、ただ一緒に、地面の下の音を聞いた。六平は、初めて、誰かと音を分け合えたことに、驚いた顔をした。仲間は、それ以上何も言わず、次の晩も、また傍らに座った。
六平は、次第に、鍬を叩く回数が減っていった。誰かが一緒に聞いてくれるだけで、自分一人で音に応え続けなくてもいいのだと、六平は思うようになったのかもしれない。
埋め立てはその後も進んだが、六平は、最後まで、仲間と共に、その場所を見送った。