青梅の石工、伊之助が、ある大きな石を切り出す仕事を頼まれた。石を割る作業の最中、石の断面に、まるで人の顔のような模様が浮かび上がった。伊之助は驚いたが、仕事は続けねばならなかった。
石は結局、ある寺の灯籠として使われることになった。灯籠が据えられた晩、月の位置によって、顔の模様の見え方が、まったく違う表情に変わることに、伊之助は気づいた。真上からの月では、笑っているように見え、傾いた月では、しかめているように見える。
伊之助は、面白がって、季節ごとに灯籠を見に通うようになった。ある晩は驚いた顔、ある晩は眠そうな顔。石は、まるで、月の角度に合わせて、いくつもの表情を隠し持っていたかのようだった。
伊之助は、この灯籠のことを、誰にともなく自慢するようになった。「うちが切った石は、月によって顔を変えるんだ」誰も、すぐには信じなかったが、実際に見に来た者は、皆、驚いて帰っていく。
伊之助は、その驚いた顔を見るのが、近頃、一番の楽しみになっている。