野衾は、夜道を歩く人の顔に覆いかぶさってくるという妖怪。布団のような平たいものが飛んできて、顔を包み、息を止めようとする。衾とは寝具の布団のことで、名前はその形状から来ている。
正体はムササビやモモンガとされることが多い。実際、ムササビは夜行性で、四肢の間の飛膜を広げて滑空する。暗い山道で突然目の前に広がりながら飛んでくれば、布団が飛んできたように見えても不思議はない。
『和漢三才図会』は、野衾を老いたムササビだと記している。鳥山石燕も『画図百鬼夜行』に描いており、そこではムササビに近い獣の姿で表されている。
地方によっては、火を吹き消す、灯りを消してしまうという性質が加わる。提灯を持って歩いていると野衾に襲われ、灯が消えるという話が伝わる。これも滑空するムササビが灯りに寄ってくる習性で説明がつきそうである。
正体がほぼ判明している妖怪だが、名前が残っている理由はよく分かる。夜道で顔に何かが覆いかぶさってくる。その瞬間の恐怖は、それがムササビだと知っていても消えない。