枕返しは、寝ている人の枕をひっくり返す、あるいは頭と足の向きを入れ替えてしまうとされる妖怪。朝起きたら枕が足元にあった、体の向きが逆になっていた、という現象を説明するために語られた。
姿は地方によって異なる。小僧の姿、仁王のような大男、子どもの幽霊、獣のようなもの。共通しているのは、寝ている間に現れるという点だけである。
背景として指摘されるのが、死者の作法との関係である。日本では死者を北枕に寝かせる習慣があり、生者が北枕で寝ることは忌まれた。枕の向きが変わっているというのは、死の作法に近づいてしまう出来事であり、それを妖怪の仕業として説明したという見方である。
また、部屋で人が死んだ場所に寝ると枕返しが出る、という伝承も各地にある。旅籠で殺された旅人の霊が枕を返す、という話も伝わるが、それは幽霊譚に近い。妖怪としての枕返しは、あくまで「その部屋に起きる現象」として語られる。
実際には、睡眠中の寝返りで説明がつく現象である。ただ、朝起きて枕がないという状況に、これほど具体的な名前がついているのは面白い。