狐火は、夜間の野山に現れる正体不明の火。提灯や松明のような光が、一列に連なって見えたり、点いたり消えたりするという。名の通り狐の仕業とされることが多く、狐が口から吐く、尾を打ち合わせて起こす、髑髏をくわえて光らせる、など各地でさまざまに語られる。
最もよく知られているのは、狐の嫁入りの伝承だろう。夜の山道に提灯の行列が見えると、狐が嫁入りをしていると言われた。晴れているのに雨が降る天気雨を「狐の嫁入り」と呼ぶのも、同じ発想の延長にある。どちらも、あるはずのないものが同時に起きる現象を指している。
王子稲荷(東京都北区)には、大晦日の夜に関東中の狐が集まり、装束榎の下で身支度をして参詣するという伝承があり、その際の狐火の数で翌年の作柄を占ったという。歌川広重の浮世絵『王子装束ゑの木大晦日の狐火』にも描かれている。
正体としては、リン化水素の自然発火、球電現象、光の屈折による錯覚など、複数の説明が試みられてきた。ただ、狐火を見たという話が各地に残っているのは、単なる見間違いというより、夜の山に何かがいると考える方が自然だった時代の感覚が、そこに含まれているからだと思う。