裏声坊は、その人がいない場所に居着く。本人が席を外した後の会議室、帰った後の飲み会、閉じた後のチャット。そこに残った者の声を変えてしまう。本人の前では褒め、いなくなった途端に不満を漏らす。裏声坊にとって、それは場を悪くしないための気遣いのつもりである。しかし、いつの間にか、誰もが裏声坊の「本人がいない時の声」を、少しずつ聞いたことがある状態になる。裏声坊の本当の評価がどちらなのか、誰にも分からなくなった頃、裏声坊自身の話も、誰かのいないところで、同じように語られるようになっている。
その人がいる時といない時で、声を変えさせる。場を保つための気遣いだと思わせる。一体になれば、自分の本当の評価がどちらなのか、誰にも――自分にも分からなくなる。
小物の妖怪は、悪戯好きだと思って可愛がりながら、うまく付き合えばいい。だが大妖怪は違う。絶対に一体になってはならない。