サ飯浪人は、温浴施設の食堂の壁に貼られた品書きの前に立っている妖怪である。仕えるべき一品を決められないまま、どの店にも属せず、券売機の前をいつまでも彷徨っている。
整った直後の、あの妙に幸福な状態にある者に取り憑き、何を食べたいかを決められなくさせる。瓶ビールと生ビール、カレーとラーメン、餃子と唐揚げ。どれも正しく見えて、どれも選べない。後ろに人が並び始めても、まだ決まらない。整った後は判断力がすっかり緩んでいるので、この妖怪にとっては一日で最も働きやすい時間である。
この妖怪には、悲しい由来が語られている。かつては一つの品に仕えていたが、その店が閉じてしまい、以来、どこにも仕える先を見つけられないまま、温浴施設の食堂を渡り歩いているのだという。だから、誰かが迷っているのを見つけると、自分と同じにしようと寄ってくる。
ただし、この妖怪に憑かれても、困るのは自分だけである。悪い妖怪ではない。むしろ、その迷っている時間まで含めて、サウナの楽しみなのだと思う。
券売機の前で長く立ち尽くしている人を見かけたら、それはサ飯浪人が肩に乗っているのかもしれない。急かさずに、しばらく待ってあげてほしい。