三度手振り入道は、人の話が流される場所に居着く妖怪である。会議室、打ち合わせ卓、朝礼の輪。「はいはい」「わかったわかった」と誰かの言葉が適当に受け流された回数が、ある量を超えた部屋に現れるという。
取り憑かれた者は、誰かに話しかけるたび、まず両手を大きく構え、上下に三度振りながら語気を強める。一度目は「聞いてほしい」、二度目は「分かってほしい」、三度目は「認めてほしい」という意味を持つといわれる。
しかし三度目の手振りが終わる頃には、相手はすっかり疲れてしまっている。この妖怪の恐ろしいところは、話を聞いてもらうための動作によって、かえって人が話を聞きたくなくなることである。
それでも三度手振り入道には、そのことが分からない。相手が黙ってしまうと「ようやく私の話を真剣に聞いている」と思い、さらに語気を強め、また両手を振る。一度、二度、三度。この妖怪が居着いた場に溜まった「聞いてもらえなかった」という悔しさは、そこに立つ者に移る。そして晴らそうとするほど、また誰も話を聞きたくなくなる。
「聞いてほしい」という願いが、誰にも聞いてもらえない姿を作り出してしまった妖怪、それが三度手振り入道である。