苦労返し婆は、苦労話が語られる場所に居着く。休憩室、病院の待合室、子育ての話が出る席。そこで誰かが自分の苦労を話すと、必ずそれより大きい苦労を返させる。「それ大変だね、でも私なんて」。共感しようとして始まった会話が、途中から苦労の大きさを競う場に変わる。苦労返し婆本人は、共感の延長だと思っている。しかし話した側は、聞いてもらえなかったという感覚だけを持って帰る。苦労返し婆の周りから、相談事は少しずつ減っていく。誰も、自分の苦労が誰かの自慢のきっかけになることを望んでいないからである。
誰かの苦しみを、自分の苦しみを語る機会に変えてしまう。共感しているつもりで、相手の話を奪っている。一体になれば、誰も自分に本当の話をしなくなる。
小物の妖怪は、悪戯好きだと思って可愛がりながら、うまく付き合えばいい。だが大妖怪は違う。絶対に一体になってはならない。