近現代妖怪 / 終末妖怪

常利己

じょうりこ
会議室の利用記録。「当該会議室での決議、直近三年で反対票ゼロ」

常利己の読みは「じょうりこ」。転じて「じょりこ」、または「ジョリコ」とも呼ばれる。カタカナで書かれると急に軽くなるが、指しているものは同じである。

常利己は、判断が行われる場所にいる。会議室、稟議書の上、人事を決める席、予算を配る瞬間。誰かが何かを決める、その一点に居着く。

人についているのではない。ここが重要である。この妖怪は特定の人物に取り憑いて回るのではなく、判断という行為そのものが行われる場に、ずっと居る。誰が座っても同じである。そこに座った者に、自分の側に有利な選択をさせる。

だから、人が入れ替わっても消えない。前の部長が去り、新しい部長が来ても、常利己は同じ席にいる。会議室を移しても、判断がそこで行われるなら移動してくる。

大妖怪が何体も重なった場に生まれるとされる。人駒、威圧喰、図粘、裏声坊、言われ弱鬼。これらはいずれも、人の習慣や考え方が本体から分離して独立したものである。それが同じ場所に長く居続け、そこで下される判断がすべて自分に有利な方へ傾いた結果、複数の大妖怪が融合して一つになる。この台帳では、これを終末妖怪と呼んでいる。分離が起きた時点で大妖怪、融合が起きた時点で終末妖怪、という区別である。

他の妖怪と決定的に違う点が三つある。

まず、取り憑かれている間の記憶が残らない。判断の場を離れれば、その人は普通の人間に戻る。家では優しい父親であり、休日には人当たりもよい。だから本人には、何が起きているか分からない。悪意で判断しているのではなく、その場にいる間だけ、そう判断してしまう。

次に、振り落とす方法が存在しない。この台帳の他の妖怪には、必ず対処法を書いてきた。一呼吸置く、桶を手に取る、目を開けて周りを見る。どれも小さな行動で解ける。常利己には、それがない。人ではなく場所に憑いているため、振り落としても場所に残る。次に座る者に、また同じことをする。

三つめ。誰からも指摘されない。この妖怪が長く居着いた場では、反対意見が出なくなる。会議で異論が出ない。稟議に修正が入らない。それを、その席に座った者は、自分の判断が正確である証だと受け取る。

常利己が居着いた場から出てくる判断は、見た目には成功している。数字は上がり、地位は上がり、資産も増える。ただし、その場を通った人間の周りから、本音を言う相手が一人ずつ減っていく。返事はもらえる。だが、それは返事であって、応答ではない。

この妖怪の作用は、計算で追うことができる。判断の場で自分に有利な選択を四十年積み重ねると、地位と資産は増え続け、本音を言える友人は崖のように落ち、話を聞いてくれる人はそれより先に消える。常利己の計算のページで、数値を動かして確かめられるようにした。

対処法は書けない。書けるのは一つだけである。判断の席に座る前に、自分の話を最後まで聞いてくれる人が何人いるかを、数えておくこと。減っていたら、その席には常利己がいる。

見かけやすい場所
同じ人物が長く座り続けている、判断の席。会議室、稟議の決裁欄、人事を決める部屋
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