人駒は、人の配置を決める場所に居着く。組織図が広げられる机、人事を決める会議室、誰をどこに置くかを話す席。そこに座った者に、人を人として見ることを忘れさせる。
この妖怪が憑いた席では、人が駒として扱われる。「あの人にやらせればいい」「あいつとあいつを組ませればいい」。人を一人の人間として見ることができず、盤上に置かれた駒のように考える。誰かが困っていれば、助けるのではなく「どう使えるか」を考える。誰かが才能を持っていれば、尊敬するのではなく「どう利用できるか」を考える。自分の思い通りに人が動くと、自分が偉くなったような気になる。
しかし人駒には奇妙な性質がある。人を駒として扱うほど、自分自身もまた駒になっていくのだ。人を利用する者を、本気で信頼する者はいない。表面では従っていても、誰も心を預けない。誰かを動かしたつもりでも、その人は別の誰かに動かされている。そうして人駒の周りから、少しずつ人が消えていく。最後に残るのは、たくさんの駒を動かそうとしている妖怪と、誰もいない盤面だけである。
それでも人駒は気づかない。自分が孤独なのは、周囲が自分の価値を理解できないからだと思っている。だが本当は逆で、人を駒としてしか見なかったため、自分もまた「人」として見てもらえなくなったのである。
人駒は今日も誰かを動かそうとする。しかし、その盤上にはもう、動かしてくれる人も、動いてくれる人もいない。
人を駒として数えさせる。効率を考えているつもりで、目の前の相手が人であることを忘れさせる。一体になれば、自分もまた誰かの駒として扱われていることに気づけない。
小物の妖怪は、悪戯好きだと思って可愛がりながら、うまく付き合えばいい。だが大妖怪は違う。絶対に一体になってはならない。