水もぐりは、水風呂の底に棲む妖怪である。取り憑かれた者は、水に深く潜っていく。冷たさに慣れてきた頃に「もう少しだけ」と思わせ、頭まで沈ませる。体はもう充分に冷えているのに、まだいけると錯覚させる。この妖怪の厄介なところは、我慢が上手な人ほど深くまで連れていかれることである。
ただし、この妖怪の扱いは、場所によって大きく変わる。潜水を禁じている施設では、水もぐりは追い出すべきものとされる。一方で、深い水風呂を備え、潜ることを売りにしている施設もある。そういう場所では、水もぐりは客と一緒に沈む同伴者として、堂々と棲んでいる。実際、そうした施設の水底では、この妖怪をいくらでも見つけることができるという。
つまり水もぐりは、悪い妖怪でも良い妖怪でもない。その浴場がどちらを選んだかによって、姿が変わるだけである。まずは壁の注意書きを読む。それが、この妖怪との付き合い方を決める一歩になる。