妖怪図鑑 / 全国区 / 風の怪異(全国区) / 分類:正体不明・怪異譚系

鎌鼬

かまいたち
複数確認
妖怪の正体を科学的に説明しようとした人たちが、何人も挑んで、意見が分かれている。

鎌鼬(かまいたち)は、つむじ風とともに現れ、鎌で切ったような傷を人につけるとされる怪異。傷は痛みも出血もほとんどなく、後になって激痛や大出血が生じることもあるという(尾張藩士・三好想山の随筆『想山著聞奇集』)。地域によって解釈が異なり、信州では3匹一組で、1匹目が人を転ばせ、2匹目が皮膚を切り、3匹目が血止めの薬を塗るため痛みを感じないという伝承がある。愛知県東部では「飯綱(いづな)」、四国では「野鎌(のがま)」と呼ばれ、それぞれ別の由来譚を持つ。明治時代には、旋風の中心にできる真空によって皮膚が裂けるという科学的な説明が広まり、井上円了いのうええんりょうもこの真空説を紹介していた。ところが同時代の物理学者・寺田寅彦は、随筆「化物の進化」の中で「この説は物理学者には少しふに落ちない」と述べ、実際には強風で飛んだ木片や砂粒が高速で衝突して皮膚が切れるのだと反論している。

おまけ(台帳データ)
伝承地
全国各地に伝承があり、信越・東海・四国など地域ごとに呼び名や由来が異なる
別名・異名
窮奇(石燕による当て字)、飯綱(愛知県)、野鎌(四国地方)
時代
近世の随筆・奇談集に広く記録が残る
動物との関係
特に確認できていない
類似・関連妖怪
井上円了いのうええんりょうの妖怪学、寺田寅彦の化物の進化論
学術的解釈
現代科学では、旋風による真空説は疑問視されており、実際には風で飛散した小さな異物による切創という説が有力
柳田國男やなぎたくにおの見解
この妖怪について具体的に言及した記述は確認できていない
小松和彦こまつかずひこの見解
この妖怪について具体的に言及した記述は確認できていない
現代文化
井上円了いのうええんりょうと寺田寅彦という、この台帳の研究者ページに登場する二人が、同じ現象について異なる説明を試みているという、珍しい接続を持つ
伝承の現況
妖怪学と物理学が、同じ一つの怪異をめぐって意見を交わした、記録に残る数少ない例だと思う