泥田坊は、泥深い田んぼの中から一つ目・三本指の上半身を出し、「田を返せ」と繰り返し叫ぶという妖怪。鳥山石燕『今昔百鬼拾遺』(1781年)が初出で、解説文によれば、ある北国で懸命に働き子孫に立派な田を残した老人が死んだ後、その子らが働かず酒に明け暮れて田を売ってしまい、老人の霊が全身真っ黒な一つ目の妖怪となって「田を返せ」と叫ぶようになった、という筋立てが語られている。泥田坊は石燕の画集以外に近世の古い民間伝承としての裏付けが確認されておらず、石燕による創作、あるいは既存の言い伝えを石燕が再構成したものと考えられている。国文学者・阿部正路は、人間の指が示す五つの徳(二つの美徳、三つの悪徳)のうち、三本指の泥田坊は悪徳のみで生きる存在ではないかという解釈を示している。後世の文献では山形県庄内地方の話として語られる例もあるが、これも石燕の妖怪をもとにした後世の再話とみる説がある。