ロウリュ無限坊は、セルフロウリュのできるサウナ室のストーブのそばに居着く。柄杓を持った者に取り憑き、水をかける手を止めさせない妖怪である。一杯、二杯、三杯。部屋の中に「もう十分では」という空気が満ちても、取り憑かれている者にはそれが届かない。
室温は自分にとって最適になっていくが、同じ部屋にいる他の人には、もう耐えられない熱さになっている。取り憑かれている間は、その差が分からない。急に湿度が上がると息苦しさを感じる人もいるが、その苦しさは、かけている本人には見えない。
この妖怪の害は、人にだけ及ぶのではない。水をかけ過ぎるとサウナストーンは冷めてしまい、一度冷めると温度が戻りにくくなる。かけ過ぎでストーブそのものが壊れる例もある。つまりこの妖怪は、居着いた場所を、自分で壊していく。
近年、セルフロウリュのできる施設では、ストーブのそばに砂時計が置かれるようになった。かけ過ぎを防ぐための仕掛けである。この妖怪の存在は、すでに施設の側にも気づかれているということだと思う。
柄杓を手にした時、一度だけ室内を見渡す。そこにいる人の顔を見れば、この妖怪はもう手を出せない。