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前奏曲 第15番「雨だれ」
曲全体で鳴り続ける同じ音が、雨だれを思わせます。穏やかな主題と、暗く迫る中間部の対比です。24曲の前奏曲で最長です。
作曲の経緯
作品28の24の前奏曲は、1839年1月にマジョルカ島で完成したことが、友人フォンタナ宛ての手紙から確認できます。着手の時期は明らかでなく、1831年から1838年までの諸説があります。ショパンは1838年11月から翌年2月まで、ジョルジュ・サンドとともに島に滞在し、雨の多い湿った冬と体調不良に苦しみました。ヘンレ版の解説によれば、第15番は、サンドの回想では島の嵐の中で書かれたとされますが、最初のスケッチはすでにパリで作られていたことを示す資料もあります。サンドの回想録は、雨の夜にショパンが、自分が湖で溺れ、冷たい水滴が胸に規則的に落ちる夢を見たと記す一方、ショパンは雨音を模倣したと解釈されることに強く反発した、とも伝えています。つまり「島で雨音を聞いて書いた」という通説は、史実としては裏付けが弱いです。曲集は1839年9月に出版されました。
出版・初演
作品28全体は1839年9月に出版されました。第15番単独の初演の日時・演奏者は未確認です。ショパン自身が演奏会で取り上げたのは24曲中4曲までと伝えられます。
題名・通称の由来
「雨だれ」はショパン自身の命名ではありません。命名者と時期は確認できませんでした。【史実】1838〜39年の冬にショパンとサンドがマジョルカ島に滞在したこと、作品28の完成が1839年1月のマジョルカであること、そしてサンドが回想録で、雨の夜にショパンが水滴の夢を見て、雨音の模倣だとする解釈に抗議したと書いていることです。【伝承・推測】この逸話に出てくる曲を、サンドは曲名で特定していません。多くの評論家が、繰り返される変イ音(嬰ト音)の響きから第15番だと推測してきたにすぎません。ピーター・ダヤンは、サンドもショパンの抗議を受け入れ、この曲を雨音の模倣ではなく自然の響きの音楽的な翻訳と見ていたと指摘しています。
構成分析
- A(変ニ長調、Sostenuto、4/4) 穏やかで晴朗な主題です。変イ音の連打が曲全体を通して鳴り続け、雨だれに聴こえる要因となります。
- B(嬰ハ短調) 異名同音で嬰ハ短調に移り、陰鬱で重い中間部へ移ります。属音のペダルが途切れず低音で続きます(バッソ・オスティナート)。変イ音は嬰ト音として、より執拗になります。
- A'(変ニ長調への回帰) 冒頭の主題に戻ります。ニークスは、中間部の悪夢から覚めた後の清明な自然のようだと評しました。
音楽的特徴
曲全体の核は、右手内側または低音域で刻まれ続ける変イ音です(中間部では異名同音の嬰ト音)。変ニ長調の明るさと嬰ハ短調の暗さが異名同音を介して対比され、同じ反復音が文脈によって意味を変えます。24曲中で最も長く、演奏時間は約5〜7分です。中間部では属音の持続音が低音に固定され、音が積み重なって緊迫感を強めます。長調から短調への移行は、両調が異名同音で結ばれていることを活かした大胆な場面転換です。
演奏のポイント
技術的な難所は少ないが、(1)終始鳴る反復音を、一定の脈動を保ちつつ機械的にならない音量とタッチで弾き分けること、(2)中間部で反復音が大きくなる際に、旋律線を見失わないこと、(3)長調部と短調部の性格の切り替え、(4)ペダルによる響きの濁りのコントロール、が主なポイントです。演奏時間が長めなので、全体の設計が重要になります。
この音源について(収録エピソード)
ルーは2018年のリーズ国際ピアノコンクールに20歳で優勝し、その後ワーナー・クラシックスと専属契約を結びました。このアルバムは2019年8月末にベルリンの名門テルデックス・スタジオで録音され、2020年2月に発売されました。24曲を一つの物語として組み立てた点がグラモフォン誌などで評価され、「雨だれ」は雨音の描写というより、印象主義的でやわらかな音楽として演奏されていると評されました。
音源の投稿元(Topic/レーベル公式)はoEmbedで確認済みです。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- アルフレッド・コルトー(1933/34(第15番のみ1950年録音もあり))
Gramophone誌が1933/34年の前奏曲集録音を名盤として論じています。レーベルは未確認です。 - マルタ・アルゲリッチ(年未確認)
ドイツ・グラモフォンの前奏曲集録音です。現代の録音で最も満足度の高いものの一つと評する記事があります(要原典確認)。
映画・ドラマ・アニメ
- 007 ムーンレイカー(1979)
ボンドが敵役ドラックスの邸宅で初めて会う場面で、ドラックスがこの曲を弾いています。 - 夢(黒澤明監督『Dreams』)(1990)
ゴッホの絵画を見る美術館の場面で、約7分半にわたり断続的に流れます。 - プロメテウス(リドリー・スコット監督)(2012)
原曲と劇伴中の引用の両方で作品全体にわたり使われます。個別の場面は未確認です。
CM
教科書・鑑賞教材
- 教育出版『中学校音楽鑑賞用教材集』令和7年度版(副教材。教科書本体ではない)
中学2・3年下—2、第13番「24の前奏曲 作品28」から第15番です(「日本と西洋の音楽の歩み」の項)。
関連作品
- 24の前奏曲 作品28(全曲、特に第7番イ長調、第20番ハ短調)
- 前奏曲 嬰ハ短調 作品45
- 前奏曲 変イ長調 B.86
- バッハ『平均律クラヴィーア曲集』(前奏曲集の範)
- ジャン・フランセによる管弦楽編曲(1967年、前奏曲集全曲)
同じ作曲者の曲
トリビア
- 24曲の中で最も長い前奏曲で、演奏時間はおおむね5〜7分です。
- サンドの回想録に出てくるのは「水滴の夢」の逸話で、曲名は書かれていません。第15番とするのは後世の推測です。
- 2022年のゲーム『Fall Guys』は、Halo 3の宣伝映像『Believe』のパロディでこの曲を使いました。