SUBURBIA CLASSICA › Songs › ピアノ独奏
幻想即興曲
右手の16分音符と左手の三連符がぶつかる両端部と、中間部の甘い旋律の対比です。ショパン自身は生前に出版しませんでした。両手のリズムのせめぎ合いも、中間部の甘さも、この曲の大好きな魅力です。
作曲の経緯
1834年にショパンが作曲したとされます。同じ年にはOp.17のマズルカやOp.18のワルツも生まれたが、本作だけは生前に出版されませんでした。理由は不明で、ベートーヴェンの「月光」ソナタに似すぎているのを気にしたという説、同じ1834年に出たモシェレスの即興曲との類似を気にしたという説があります。ショパンは遺言で未発表作品の公表を禁じたとされますが、友人のフォンタナが1855年に遺作として世に出しました。1960年ごろ、ルービンシュタインがパリの競売で「エステ男爵夫人のアルバム」を入手し、1835年の日付が入ったショパン自筆の清書譜を見つけました。表紙には「エステ男爵夫人のために作曲」とあり、フォンタナ版とは音やニュアンスの違いが多いです。ルービンシュタインはこれを決定稿と考えました。ただし日本語版Wikipediaは発見を1962年としており、年に食い違いがあります。
出版・初演
1855年、ユリアン・フォンタナが遺作として出版しました(Op.69・70のワルツと同時)。初演は未確認です。自筆清書譜(1835年付)を基にした版は、ウィーン原典版、ポーランド国民版、ペータース版、ヘンレ版などに収められています。録音は、フォンタナ版の例にバックハウス(1908年)、自筆譜版の例にルービンシュタイン(1964年)が挙げられます(日本語版Wikipedia)。
題名・通称の由来
「幻想即興曲」の題はショパンの生前にはなく、フォンタナが1855年に出版したときに付けました。即興曲としては最初に書かれたが出版が最後になったため、第4番という番号になりました。この番号は旧全集の便宜上のものです。
構成分析
- A部(Allegro agitato、嬰ハ短調、2/2) 右手の16分音符と左手の三連符が絶えず絡み合い、休みなく動きます。「月光」ソナタ第3楽章との類似がオスターのシェンカー分析で指摘されています。
- B部(Largo → Moderato cantabile、変ニ長調) 嬰ハ長調と異名同音の変ニ長調に移り、のびやかな歌になります。この旋律は1917年のポピュラー曲『I'm Always Chasing Rainbows』に引用されました。
- A'部(Presto、嬰ハ短調へ復帰) 冒頭の急速な動きが戻ります。
- コーダ 左手がB部の主題を静かに弾き直し、右手は16分音符を続けます。最後は嬰ハ長調の和音(ピカルディ終止)で静かに閉じます。
音楽的特徴
複合三部形式です(A-B-A')。2/2拍子の中で、右手の16分音符と左手の三連符が交差リズムを作り、緊迫感を支えます。中間部は同主調の異名同音(変ニ長調)に移り、急から緩へ性格を一変させます。オスターの分析では、同じ嬰ハ短調の「月光」ソナタとの類縁が強いです。主題提示の2小節後の急速なパッセージは、「月光」終楽章のカデンツァと同じ音を1オクターヴ上で用います。一方、ハネカーは一部を「感傷的」で「気高さに欠ける」と批判しています。
演奏のポイント
右手の16分音符と左手の三連符のずれを、拍が崩れずに保つことが最大の課題です。ノンストップの急速なパッセージを滑らかなレガートで弾き通す持久力が要ります。中間部は旋律を歌わせつつ伴奏の流れを保ちます。版によって音が異なるため、フォンタナ版と自筆譜版のどちらを使うかを決めておきます。
この音源について(収録エピソード)
ショパンとその影響を受けた作品を並べた2枚組です。プレトニョフ編曲による2つのピアノ協奏曲の世界初録音(マーラー室内管)、セルゲイ・ババヤンとの2台ピアノ用ロンド、トリフォノフ編のバルバー、グリーグ、チャイコフスキーらの小品、モンポウのショパン変奏曲を含みます。Gramophone誌の評では、幻想即興曲は独立曲としての収録で、最後のモンポウの変奏曲の第10変奏がその中間部を引用して全体を閉じます。
音源の投稿元はoEmbedで確認済みです。このトラックが上記アルバムのものかは、演奏者とレーベルからの推定です。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- ヴィルヘルム・バックハウス(1908)
フォンタナ版による録音例です(日本語版Wikipedia)。レーベルは未確認です。 - アルトゥール・ルービンシュタイン(1964)
自筆譜を発見した本人による、自筆譜版の演奏例です(日本語版Wikipedia)。レーベルは未確認です。
映画・ドラマ・アニメ
確認できた出典はありません。
CM
確認できた出典はありません。
教科書・鑑賞教材
教科書・鑑賞教材での掲載を示す出典は確認できませんでした。
関連作品
- ベートーヴェン「月光」ソナタ(嬰ハ短調、特に第3楽章)
- モシェレス 即興曲 変ホ長調 Op.89(類似が指摘される)
- 即興曲第1〜3番(Op.29、36、51)
- モンポウ「ショパンの主題による変奏曲」第10変奏(中間部を引用)
- ジョージ・クラム「マクロコスモス」第1巻「夢のイメージ」(中間部を3回引用)
同じ作曲者の曲
トリビア
- ショパンは遺言で未発表作品の公表を禁じたとされますが、フォンタナがそれに背いて出版しました。
- 自筆の清書譜は長く行方が分からず、1960年ごろにルービンシュタインが競売で入手するまで知られていませんでした。
- 中間部の旋律は1917年の『I'm Always Chasing Rainbows』にそのまま使われました。