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ノクターン第20番 嬰ハ短調 遺作(レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ)
ウィーン到着直後の1830年、姉のために書かれたノクターンです。協奏曲の断片を引用した回想的な小品で、映画『戦場のピアニスト』の冒頭でも流れます。
作曲の経緯
1830年、ショパンが故郷ワルシャワを離れてウィーンに着いた直後に書いた作品です。姉ルドヴィカに送られ、「第2協奏曲に取り組む前の練習に」という趣旨の献辞が添えられたと伝わります。実際、中間部にはピアノ協奏曲第2番の終楽章の主題や第1楽章の第2主題の断片、さらに歌曲「乙女の願い」の旋律が織り込まれ、姉の愛した曲への思い出の引用になっています。ポーランドで十一月蜂起が起きた時期と重なるため、望郷の念の表れと見る向きもありますが、曲の軽やかさから蜂起の報を知る前の作とする見方もあり、決着していません。ルドヴィカは「夜想曲風のレント」として整理しており、後にノクターンとして扱われるようになりました。
出版・初演
作曲者の死後の1875年に出版されました。伝記作家シュルツが手稿を見つけ、ライトゲーベルが出版しました。初版の題は「アダージョ」です。
題名・通称の由来
ショパン自身は『ノクターン』とも番号とも付けていません。遺作として刊行された初版の題は『アダージョ』で、姉ルドヴィカの整理(夜想曲風のレント)を通じてノクターンとして定着し、通称の『レント・コン・グラン・エスプレッシオーネ』は楽譜の速度標語に由来します。『追憶(Reminiscence)』の別名は望郷の曲とする解釈に基づきます。生前出版のノクターンは18曲で、本作は含まれず『第20番』は後世の通し番号です。
構成分析
- 序奏(1〜4小節) 静かな導入のあと、5小節目から主要旋律が始まります。
- 主部A 左手の流れるアルペジオの上で、息の長い歌が展開します。
- 中間部B 協奏曲第2番(第3楽章の主題・第1楽章の第2主題)と歌曲「乙女の願い」の断片を引用します。
- 再現A' 冒頭の主題が戻り、最後は嬰ハ長調の和音で静かに閉じます。
音楽的特徴
哀愁をおびた旋律がゆったりした左手のアルペジオに乗って歌われ、ショパンの初期ノクターンの特徴をよく示します。後半では協奏曲や歌曲からの引用が次々に現れ、郷愁を帯びた回想のような趣を生みます。最後は短調の曲でありながら長調の和音で結ばれ、悲しみの中にかすかな救いが残ります。技巧的には、中間部の細かな装飾音形がやや目立つ程度で、全体として演奏のしやすさと表現の深さを両立しています。
演奏のポイント
主旋律を歌わせるには、左手のアルペジオを小さな音量で保つことが肝心です。中間部は引用が連なるので、各断片の表情を弾き分けつつも流れを止めません。テンポを揺らしすぎず、最後の和音を静かに響かせます。
この音源について(収録エピソード)
全集盤はリシエツキのDGでの8枚目のアルバムで、ショパン録音としては3作目です。コロナ禍の合間の約1週間をこの録音に充て、本人は「最もリラックスして楽しめたセッション」と語っています。ピアノ技術者はダニエル・ブレヒ、プロデューサーはシュテファン・フロックで、長年の協力関係にあります。2021年8月13日発売です。なおこの動画が全集盤のトラックかは確認できていません。
音源の投稿元(Jan Lisiecki - Topic)はoEmbedで確認済みです。どの盤のトラックかは未確認です。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
確認できた出典はありません。
映画・ドラマ・アニメ
- 戦場のピアニスト(2002)
冒頭のワルシャワのラジオ局の場面と、戦後にラジオへ復帰する場面で使われたとIMDbのFAQにあります。ドイツ軍将校ホーゼンフェルトの前で弾くのは本曲ではなくバラード第1番です。
CM
確認できた出典はありません。
教科書・鑑賞教材
教科書・鑑賞教材での掲載を示す出典は確認できませんでした。
関連作品
- ピアノ協奏曲第2番 ヘ短調 Op.21
- 歌曲「乙女の願い」Op.74-1
- ノクターン第1番 変ロ短調 Op.9-1
- バラード第1番 ト短調 Op.23(映画でホーゼンフェルトの前で演奏される曲)
同じ作曲者の曲
前奏曲第7番 イ長調 Op.28-7 / ワルツ第7番 嬰ハ短調 Op.64-2 / ワルツ第9番 変イ長調 Op.69-1『別れのワルツ』
トリビア
- 実在のピアニスト、シュピルマンは1939年9月23日のポーランド放送で本曲を弾いている最中に、空襲で放送が中断されたと伝えられます(Wikipedia)。
- 1894年10月17日、ジェラゾヴァ・ヴォラでのショパン記念碑除幕を祝って、バラキレフが演奏したとされます。
- 手稿はスペイン・バルデモサのカルトゥハ修道院に所蔵されています。