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交響曲第9番 ホ短調「新世界より」第2楽章 ラルゴ(「家路」)
コーラングレが歌う変ニ長調の主題で知られる『新世界より』の緩徐楽章です。のち英語詞『Goin' Home』や堀内敬三の『家路』となり、日本でも広く愛されています。
作曲の経緯
ドヴォルザークは1892年から1895年までニューヨークの国民音楽院の院長を務め、この交響曲を1893年に書きました。院で出会ったアフリカ系アメリカ人の学生ハリー・バーリーが歌う黒人霊歌を聴き、その精神を吸収したとされます。本人は初演前日のニューヨーク・ヘラルド紙で、先住民音楽の旋律は実際には使わず、その特徴を盛り込んだ独自の主題を作って展開したと説明しています。第2楽章については、ロングフェローの『ハイアワサ』に基づく将来のカンタータか歌劇のための「習作」のようなものだと述べました(その作品は書かれませんでした)。主題を当初のクラリネットからコーラングレに改めたのは、バーリーの声を思わせたためと伝えられます。1893年夏のアイオワ旅行で見た広大な土地の印象も作品に反映したと言われます。初演は同年12月16日、ニューヨークのカーネギー・ホールです。
出版・初演
初演は1893年12月16日、カーネギー・ホールで、アントン・ザイドル指揮ニューヨーク・フィルによる演奏です(同団の委嘱)。各楽章のたびに熱烈な拍手が起こり、作曲者が立ってお辞儀をしたといいます。ロンドン初演は1894年6月21日(A.マッケンジー指揮)、プラハでは同年10月13日に作曲者自身の指揮で演奏されました。初版時は交響曲第5番とされ、古い文献や録音ではその番号で呼ばれます。出版社は未確認です。
題名・通称の由来
「新世界」はアメリカを指します。第2楽章の旋律は、ドヴォルザークの弟子(資料により同僚とも)W・A・フィッシャーが1922年に歌詞を付けて歌曲「Goin' Home」としました。日本では1946年に堀内敬三が日本語詞を付けた「家路(遠き山に日は落ちて)」として親しまれています。宮沢賢治が1924年夏までに自作の詩を同じ主題に付けて歌っていた(『種山ヶ原』)との記述もあります。
構成分析
- 導入 管楽器による和音の進行です。研究者は「むかしむかし」という語りの定型を表すと解釈します。
- 第1部(主題) 弱音器付きの弦の上で、コーラングレが変ニ長調の主題を独奏します。
- 中間部 嬰ハ短調で郷愁と寂しさを帯び、低弦のピツィカートの上で葬送行進風になります。続いてスケルツォ風の部分に、この楽章の主題と第1楽章の主題が現れます。
- 結び 主題と導入の和音がそっと戻って静かに閉じます。
音楽的特徴
コーラングレの独奏による息の長い旋律です。五音音階に近い音の運びが日本人に親しみやすい、との指摘もあります(資料による説明)。ドヴォルザークは、先住民音楽やアフリカ系アメリカ人の霊歌の特徴を取り入れたが、旋律をそのまま引用したわけではないと述べています。
演奏のポイント
聴きどころは四つあります。①コーラングレ独奏の息の長さと音色(ヴィブラートや呼吸の取り方)です。②弱音器付きの弦の柔らかな響きです。③中間部の嬰ハ短調への陰りと、第1楽章主題の回想です。④最後の主題とコラール風の和音が戻る弱音の処理です。
この音源について(収録エピソード)
バーンスタインとニューヨーク・フィルのこの録音は、1962年4月16日にニューヨークのマンハッタン・センターで行われました。プロデューサーはジョン・マクルーアです。LPの解説はエドワード・ダウンズ、ジャケットの写真はアーヴィング・ペンが担当し、ステレオ盤(MS 6393)にはドヴォルザークの木版画(額装向け)が付いていたと、ディスコグスの盤情報にあります。LP上のラルゴの演奏時間は14分35秒です。同じマンハッタン・センターでは、1963年に《スラヴ舞曲》、1965年に《謝肉祭》序曲が録音されました。バーンスタインはこの交響曲を、ほかに1953年(デッカ)と1986年(DG、イスラエル・フィルとのライヴ)にも録音しています。
音源の投稿元(Leonard Bernstein - Topic)はoEmbedで確認済みです。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィル(1962)
コロンビア。1962年4月16日、ニューヨークのマンハッタン・センターで録音されました。 - レナード・バーンスタイン指揮 ストイダム・コンサーツ交響楽団(1953)
デッカ。1953年7月28日、ニューヨークのルイゾーン・スタジアムで録音されました。 - レナード・バーンスタイン指揮 イスラエル・フィル(1986)
DG。1986年9月24日、パリのサル・プレイエルでのライヴ録音です。 - ラファエル・クーベリック指揮 ベルリン・フィル(1972)
DG。BBC Music Magazineが推薦盤に挙げ、テンポの扱いに賛否はあるが演奏は愛情深いと評しました。 - ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィル(1985)
DGです(カラヤン・ゴールドにも収録)。
映画・ドラマ・アニメ
- Crimes of Passion(ケン・ラッセル監督)(1984)
ラルゴが映画の主要な音楽テーマとして使われます。
CM
- Hovis(英国のパン)「Boy on the Bike」
1973年です。リドリー・スコット監督のテレビCMにラルゴが使われ、英国で広く知られるきっかけになりました。
教科書・鑑賞教材
- 『改訂新版 中学生の音楽3』(音楽之友社、昭和50年発行)
堀内敬三作詞「家路」を混声四部合唱で掲載しています。 - 『中学生の音楽3』(教育芸術社、昭和49年・昭和39年発行)
野上彰作詞の「家路」を合唱曲として掲載しています(題は「家路(交響曲『新世界』から)」です)。 - 『改訂 音楽』(教育出版、昭和51年発行・高校)
作曲者ドヴォルザークと「新世界から」についての記述があります(同サイトによる確認)。
関連作品
- W・A・フィッシャー『Goin' Home』(1922年)
- 堀内敬三『家路(遠き山に日は落ちて)』(1946年)
- 宮沢賢治『種山ヶ原』
- ドヴォルザーク 弦楽四重奏曲 ヘ長調 Op.96『アメリカ』(同じ1893年夏に作曲)
- ロングフェロー『ハイアワサの歌』
トリビア
- ニール・アームストロングは、アポロ11号の月面着陸ミッションに、この交響曲を含むテープ録音を持って行ったとされます。
- 「Goin' Home」は黒人霊歌と誤解されることが多いが、1922年以前にこの歌が存在した証拠はなく、旋律もこの交響曲(1893年)より前には見つかっていません。
- 宮沢賢治は1924年夏までに、同じ主題に自作の詩を付けて歌っていました。当時の友人の自叙伝にその記録があると、ある資料は伝えています(堀内敬三版より20年あまり前)。