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ピエ・イェズ(フォーレ《レクイエム》作品48 第4曲)
フォーレ《レクイエム》の中心に置かれたソプラノ独唱の短い祈りです。変ロ長調の簡素な旋律が三度繰り返され、安息への願いを静かに深めていきます。
作曲の経緯
フォーレのレクイエムは1887年から作曲が始まりました。両親の死と結びつけて語られがちだが、母の死の時点で既に着手していたとされ、本人は「特別な目的のためでなく、いわば楽しみのために書いた」旨を手紙に記しています。1888年1月16日、パリのマドレーヌ教会で建築家ジョゼフ・ルスファシェの葬儀の際に、5曲構成の初稿が作曲者の指揮で演奏されました。ピエ・イェズはこの初稿に既に含まれ、独唱は少年ソプラノのルイ・オーベールが務めました。日本語版Wikipediaは、残されたスケッチの最も早い段階からこの曲が現れ、全曲の核と見られると記します。マドレーヌ寺院は女声を認めず、曲は少年の声域を意識して書かれたが、演奏会ではフォーレ自身が女声ソプラノを好みました。その後バリトン独唱の「奉献唱」と「リベラ・メ」が加わって7曲となり、出版社アメルの提案で1900年に大編成の管弦楽版が作られました。
出版・初演
初演は1888年1月16日、マドレーヌ教会です(初稿・5曲)。第2稿の初演は1893年1月21日、同教会です。現行の管弦楽版は1900年7月12日、パリ万博のトロカデロで演奏されました(指揮ポール・タファネル)。出版は1901年、アメル社です。なお日本語版Wikipediaは1900年5月のリール初演としています。
題名・通称の由来
ラテン語の呼格「Pie Iesu」(慈悲深きイエスよ)に由来します。『怒りの日』続唱の最後の二行にあたる祈りの詩句で、レクイエムの多くの作曲家が独立楽章として扱ってきました。
構成分析
- 第1の呼びかけ 変ロ長調、6小節のモード的な旋律です。
- 第2の呼びかけ 似た旋律がより高い音域に届きます。
- 第3の呼びかけ 最初の形で始まり、より低い音域で二音を行き来しつつ、最後の「requiem」は穏やかに上行して終わります。
- 伴奏 オルガンと弦、ハープです。最終版ではフルートとクラリネットがこの楽章でのみ加わります。
音楽的特徴
フォーレは伝統的な「怒りの日」続唱を全曲では置かず、この一節だけを残しました。恐怖より安らぎを前面に出す全曲の性格を、中央のこの楽章が象徴します。サン=サーンスは「モーツァルトの『アヴェ・ヴェルム・コルプス』が唯一であるように、これが唯一のピエ・イェズだ」と評したと伝わります。
演奏のポイント
長い息と弱音の安定が求められ、少年には難しい面もあるため女声が歌う例が多いです。装飾を排した旋律が、二音の往復で収まっていく終結部(requiem sempiternam)の静けさを聴きたいです。
この音源について(収録エピソード)
ミシェル・コルボ指揮、ベルン交響楽団によるフォーレの《レクイエム》から、第4曲「ピエ・イェズ」です。独唱はアラン・クレマン、オルガンはフィリップ・コルボです。同じ演奏者による録音について、ワーナー公式の再発資料は1972年5月13日にベルンのカジノで録音したと記載しています。これは配信の℗年から推測した日付ではありません。配信クレジットではクレマンを「Counter-Tenor Vocals」と表記していますが、ここではボーイ・ソプラノとするレーベル公式資料と、子供の声とする原盤の書誌情報に従っています。
指定動画の配信クレジットを、同じ演奏者を記載したレーベル公式資料・原盤の書誌情報と照合しました。配信音声そのものや再発時のマスターとの同一性は未確認です。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- ヴィクトリア・デ・ロス・アンヘレス、フィッシャー=ディースカウ、クリュイタンス指揮(1963)
サン=ロック教会での録音です。AllMusic Guideが推薦しています。 - ロバート・チルコット(少年)、ウィルコックス指揮ケンブリッジ・キングス・カレッジ合唱団(1967)
少年独唱による録音です。 - キャロライン・アシュトン、ラター指揮ケンブリッジ・シンガーズ(1984)
ラター校訂の1893年版録音です。 - キャスリーン・バトル、アンドレアス・シュミット、ジュリーニ指揮フィルハーモニア管(1986)
DG盤です。バトルの独唱で知られています。 - ジュディス・ブレーゲン、ロバート・ショー指揮アトランタ交響楽団(1987)
Telarc盤です。
映画・ドラマ・アニメ
確認できた出典はありません。
CM
確認できた出典はありません。
教科書・鑑賞教材
教科書・鑑賞教材での掲載を示す出典は確認できませんでした。
関連作品
- フォーレ《レクイエム》他の楽章(イン・パラディスム、リベラ・メ)
- ブラームス《ドイツ・レクイエム》(構成の類似)
- アンドルー・ロイド=ウェバー《レクイエム》のピエ・イェズ
- デュリュフレ《レクイエム》
トリビア
- 1888年の初演後、司祭から「こんな新機軸は要らない、マドレーヌの典礼曲は十分豊かだ」と言われたと伝わります。
- 全曲は1924年のフォーレ自身の葬儀で演奏されました。
- 最初の全曲録音は1931年です(フランスのグスタフ・ブレ指揮)。