It's Comin'

1994
地域 / シーン:Philadelphia
初期The Rootsの六曲入りEPを開き、フィラデルフィアとロンドンの接点を伝える一曲。
フィラデルフィアからロンドンへ、六分半の扉
「It’s Comin’」が一曲目に置かれた1994年の『From the Ground Up』は、The Rootsの初期史を圧縮した六曲入りEPだ。「Distortion to Static」「Mellow My Man」「Datskat」といった、後の『Do You Want More?!!!??!』にもつながる題名が並ぶ。その先頭に約六分半の曲を据えた構成は、短い自己紹介よりも、まず一曲の時間を丸ごと委ねてもらう入口に見える。
この入口はフィラデルフィアだけに向けて開かれたものではなかった。Gilles Petersonを迎えた自身の番組で、Questloveは初期の『Organix』がロンドンのクラブでかけられたことに驚いたと振り返っている。自分たちの音楽とナイトクラブが結びつくとは思っていなかったという。その出会いから続く関係の中で、『From the Ground Up』はPetersonのレーベルから広く流通するEPになった。
だから「It’s Comin’」は、のちの大きなバンドを予告するだけの資料ではない。どんな音楽に踊れるのか、誰がその居場所を見つけるのかという、グループ自身の認識が広がっていく時期に属する作品だ。「Worldwide (London Groove)」も収めるEPをひとまとまりでたどると、アメリカのグループを英国のDJと聴衆が受け止めた往復の経路まで見えてくる。
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ロンドンのDJが教えた、踊れる音楽の範囲
Petersonとの対談でQuestloveが思い出すのは、自分たちのCDをクラブで使ってくれた恩だけではない。ロンドンでは一つの店の各階で違うDJやバンドが鳴り、ソウル、ディスコ、テクノ、ジャズ的な演奏が別々の部屋を持っていた。その風景から学び、アメリカでも同じような場を作ろうとしたと話している。 「ジャズを取り入れたラップ」という分類だけでは、この経験の半分しか捉えられない。大事なのは素材のジャンルより、どの部分を、いつ、誰の前で鳴らすかというDJの発想だった。「It’s Comin’」を収めたEPにロンドンを名指す曲もあることは、その活動範囲を考える手がかりになる。街を越えたのはレコードだけでなく、音楽を人前で生かす方法そのものだったと読める。
生演奏のバンドにもある、編集とミックスの歴史
『From the Ground Up』の曲目にはRadio EditとBeat Mixという表記が残る。「生演奏のヒップホップ」というThe Rootsのイメージを、スタジオで加工しない音楽と同義にすることはできない。「It’s Comin’」自体も、QobuzのクレジットではAhmir ThompsonとNegaz Grandの制作に加え、共同制作、録音、複数人のミックスという分担が見える。 後年の『Do You Want More?!!!??!』拡張版には、6分27秒の「It’s Comin’」が「Swept Away」のOriginal Draftや「Lazy Afternoon」のAlternate Versionとともに収録された。こうした並びから見えるのは、一枚の名盤の外側で残った選択肢だ。演奏を組み立てることと、どの形で作品にするかを決めること。その両方が初期The Rootsの制作であり、EPを聴く意味もそこにある。
制作背景
六曲入りEPの一曲目
『From the Ground Up』の冒頭に収録。EPには「Worldwide (London Groove)」のほか、「Distortion to Static」のRadio Editや「Do You Want More?!!!??!」のBeat Mixが並ぶ。
スタジオ版の制作陣
正規配信の曲別表記はAhmir ThompsonとNegaz Grandがプロデュース。QobuzにはA.J. ShineとRichard Nicholsの共同制作、David Ivoryのエンジニア、Bob Powerらのミックスも記載される。
サンプル元
公式音源の公開情報で曲名と投稿者を確認しています。サイト内での実再生は未確認です。
サンプル元は未確認。未掲載はサンプル不使用を意味しない。
出典
The Roots / Audiomack — 「It’s Comin’」の公式配信情報
Bugs — 『From the Ground Up』の曲順