CRATEDIGGIN'CURATED BY DJ NAOYAMAN

The MC

The MC — KRS-One|CRATE DIGGIN|DJ Naoyaman
Original graffiti · Designed by DJ Naoyaman

1996

地域 / シーン:New York

KRS-One

Domingoの同じテープから、選ぶ人の違いが「The MC」を生んだ。

Fat Joe側が選ばなかったビートを、KRSが選ぶ

KRS-Oneの「The MC」は、自分は何者かという問いを、観客のいる場で何ができるかへ置き換える曲だ。止まりかけたパーティーを動かし、大きな会場をまとめ、言葉を届ける。その役割を積み上げながら、自分の名ではなくMCという存在を押し出していく。誇示しているのは持ち物ではなく、必要な場面でマイクを預かれる技量である。

制作を担ったのはDomingo。本人の回想では、KRSに渡したビートテープから本曲のトラックが選ばれ、マンハッタンのリハーサル・スタジオで選曲を確認したという。同じビートは、すでにFat Joe側へ渡したテープにも入っていた。作品になるかどうかは素材の良し悪しだけでは決まらない。あるMCが自分の言葉を置ける場所を見つけることで、ビートの役割が定まる。

1997年の『I Got Next』を評したCMJのElliott Wilsonは、「The MC」を教示的な曲として挙げた。ここで教えることと、パーティーを沸かせることは別の仕事ではない。フロウを学び、言葉が及ぼす力に注意しながら、人を動かす。自分の腕前を宣言する曲が、そのまま次のMCへ求める条件にもなっているところに、KRSの教師としての姿がある。

Domingoの回想には、誰が選んだかという細部もある。後で「The MC」のビートを聴いたFat Joeから、なぜ自分に渡さなかったのかと尋ねられ、Domingoは既に渡したテープに入っていたが、選曲していたBuckwildが選ばなかったのだと答えたという。才能を競う逸話というより、同じ候補から違う曲が生まれうる例として読みたい。KRSが選び取ったことで、このビートはMCの仕事を語る言葉の置き場になった。

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同じビートでも、選ぶ人が違えば曲になる

Domingoは2023年の取材で、Fat Joeとの制作を通じてKRSと会い、ビートテープを渡した流れを語っている。「The MC」の候補をKRSが選んだ後、Fat Joeから、なぜ自分に渡さなかったのかと聞かれた。Domingoの返答は、すでに渡したテープに入っていたが、選ばれなかったというものだった。 この逸話が示すのは、単純な早い者勝ちではなく、聴き手ごとに違う選曲の感覚だ。KRSがそのトラックを選ぶと、テープの一候補が「The MC」の土台になる。制作史は完成した盤の名義だけでは見えない。誰が用意し、誰が可能性を見つけ、自分の曲にしたのかという受け渡しにも、作品を決める瞬間がある。

参考資料:VALIDATED — Domingoインタビュー「Brooklyn Legend」(2023)

12インチから届いた、MCの仕事論

1997年2月1日付Billboardは、当時12インチのみで流通する注目曲の一つとして「The MC」を取り上げ、Hot R&B Singlesの67位、Hot Rap Singlesの17位への初登場を報じた。後にアルバムの一部として定着する曲が、その前に単独でDJや買い手へ届いていた。マイクを握る者の役割を語る音楽は、実際の選曲の場を通って広がっていたのだ。 歌の中でKRSは、Rooftop、Red Zone、Roxy、Bentley’sというクラブの名を、自分が鍛えられた場所として挙げる。MCの権威を示す証拠は、ブランド品だけでなく、観客と向き合ってきた現場にあるという構図だ。12インチの流通と、この現場を重んじる歌詞を重ねると、「The MC」は称号の宣言であると同時に、実践の積み重ねを語る曲として読める。

参考資料:Billboard — 1997年2月1日号「Twelve Inchers」・Hot Rap Singles

制作背景

制作とミックス

Producer、Mixing EngineerはいずれもDomingo。

先行12インチ

1997年3月のBillboardが前年10月の3曲入り12インチ発売を報じる。

同時代の受容

CMJの1997年評はThe MCを教示的な曲として挙げる。

サンプル元

公式音源の公開情報で曲名と投稿者を確認しています。サイト内での実再生は未確認です。

サンプル情報は、出典で確認できたものを掲載しています。記載がない場合も、サンプルが使われていないとは限りません。

出典

Jive/Legacy official audio credits

Billboard March 29 1997: Jive campaign interview

CMJ April 1997: I Got Next review

Apple Music: The MC / I Got Next

VALIDATED — Domingoインタビュー「Brooklyn Legend」(2023)

Dork / LRCLIB — The MC 歌詞・クレジット

Billboard — 1997年2月1日号「Twelve Inchers」・Hot Rap Singles

CMJ New Music Monthly — Elliott WilsonによるI Got Next評(1997年4月号、原版スキャン)

A NOTE FROM THE EDITOR

Old records.
New afternoons.

音楽は、発売された年に閉じ込めておくには、
少しばかりよくできすぎている。

好きな曲を掘る。元になった音をたどる。街や仲間の話に寄り道する。
そうして、いまの自分の耳を、もう一度確かめる。

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