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組曲「惑星」より 木星(快楽をもたらす者)
活気ある舞曲風の主部と、中間部の広い旋律の対比が魅力です。中間部は英国の賛歌と平原綾香『Jupiter』の原曲にもなった、ホルスト『惑星』の代表楽章です。
作曲の経緯
組曲『惑星』は1914年から1917年にかけて書かれ、「木星」は火星・金星に続き1914年の終わり頃に作曲されました。構想の発端は1913年春、ホルストが友人バルフォア・ガーディナーやバックス兄弟とスペインを旅したときの占星術をめぐる会話とされ、曲は天文学ではなく占星術上の性格づけに基づきます。当時ホルストはセント・ポール女学校とモーリー・カレッジの音楽教師で、作曲に使えたのは週末と休日だけでした。右腕の神経炎も重く、200ページ近い総譜の清書は同僚2人の手を借りたといいます。まずピアノ用に書かれ、管弦楽への書き直しは1917年に終わりました。ホルスト自身は、「木星」は日常的な意味での陽気さに加え、宗教的・国家的な祝祭に伴う儀式的な喜びももたらす、と記者に語っています。
出版・初演
組曲の初演は1918年9月29日、ロンドンのクイーンズ・ホールです。エイドリアン・ボールト指揮、招待客約250人の非公式な会でした。1919年2月27日の王立フィルハーモニック協会の演奏会では「木星」を含む5曲が一般公開で演奏されました。全曲の初の公開演奏は1920年11月15日、アルバート・コーツ指揮ロンドン響です。総譜はブージー&ホークス社から出版されました(1921年版)。
題名・通称の由来
副題の「Bringer of Jollity」は占星術上の木星の性格づけに由来します。ホルストは「日常的な喜びと、宗教的・国家的な祝祭のより儀式的な喜び」を指すと説明しました。日本語では「快楽」のほか「歓喜」などと訳されます。中間部の旋律は1921年に詩「I Vow to Thee, My Country」の旋律に転用され、のち賛歌曲「サクステッド」の名で知られています。日本では2003年に平原綾香『Jupiter』(吉元由美作詞)の旋律にもなりました。
構成分析
- 第1〜第3主題(Allegro giocoso) ホルンの快活な第1主題で始まり、リズミカルな第2主題、舞曲風の素朴で明るい第3主題が続きます。
- 中間部(Andante maestoso) 弦とホルンが歌う厳かな第4主題です。冒頭の半分の速さで3/4拍子、変ホ長調です。この旋律が賛歌「我は汝に誓う、我が祖国よ」と平原綾香『Jupiter』の原曲となりました。
- 再現部 第1〜第3主題が再現し、第4主題がロ長調で戻ります。
- 結尾 全管弦楽による3連続フォルテ(fff)の一撃の和音で終わります。
音楽的特徴
曲全体は活気に満ちた舞曲風の部分と、中間部の広い歌とのコントラストで成り立ちます。中間部の旋律は終止が解決しないまま次へ進む点も特徴とされます。『惑星』は大編成(オルガン、チェレスタ、テナーチューバなどを含む)で書かれており、この楽章でもその音色の幅が生かされます。
演奏のポイント
①冒頭のホルンの呼びかけと、舞曲風の主題の弾むリズムに耳が向きます。②中間部の第4主題は、ゆったりした歩みの中で幅広く歌います(ホルスト自身の録音は、のちの賛歌のイメージとは違う作りだと研究者が指摘しています)。③再現部でロ長調に戻る第4主題の高揚も聴きどころです。④最後のfffの一撃まで楽しみたいです。
この音源について(収録エピソード)
バーンスタインとニューヨーク・フィルによる『惑星』は、1971年12月初めにニューヨークで録音され、1973年に発売されました。女声合唱はカメラータ・シンガーズの女声です。LPの後、CDで1985年と1997年に再発され、2022年にはDuttonからSACDにもなりました。この音楽は、1972年3月に放送されたバーンスタインの最後の「ヤング・ピープルズ・コンサート」の題材にもなっています。この盤の「木星」は、組曲を締めくくる前の華やかな楽章として収められています。
音源の投稿元(Leonard Bernstein - Topic)はoEmbedで確認済みです。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- ホルスト自身指揮 ロンドン交響楽団(1922)
「木星」のみを1922年10月27日にアコースティック録音しました。全曲は1926年に電気録音しています。 - エイドリアン・ボールト指揮 BBC交響楽団ほか(1945–1978)
初演者ボールトは生涯に5回録音しています。最後は1978年のロンドン・フィルとの録音です(EMI)。 - ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ウィーン・フィル(1961)
デッカ。ウィーンのゾフィエンザールで1961年9月5〜22日に録音されました。ホルストの娘イモージェンが最高の演奏と評したと伝わります。 - レナード・バーンスタイン指揮 ニューヨーク・フィル(1971)
コロンビア。1971年12月初旬に録音されました。 - ヘルベルト・フォン・カラヤン指揮 ベルリン・フィル(1981)
ドイツ・グラモフォン。1981年1月にベルリン・フィルハーモニーで録音されました。
映画・ドラマ・アニメ
- (Ken Russell's View of) The Planets(1983)
『惑星』の音楽を使ったテレビ放送用のモンタージュ映像です。使用音源はオーマンディ指揮フィラデルフィア管の録音です。
CM
- ACジャパン(旧・公共広告機構)「臨時キャンペーン・災害支援『できること』篇」
2005年です。平原綾香『Jupiter』がCMソングとして使用されています。
教科書・鑑賞教材
教科書・鑑賞教材での掲載を示す出典は確認できませんでした。
関連作品
- 賛歌「我は汝に誓う、我が祖国よ」(1921年、セシル・スプリング・ライスの詩、旋律名サクステッド)
- 平原綾香『Jupiter』(2003年12月17日発売、吉元由美作詞。デビュー曲で、シングルは2006年に出荷100万枚を突破)
- 本田美奈子.『ジュピター』(2003年、岩谷時子作詞)
- ワールド・イン・ユニオン(1991年ラグビーW杯のテーマ曲。木星の旋律を使用)
- 冨田勲 シンセサイザー版『惑星』(1976年)
トリビア
- ホルストは『惑星』の抜粋演奏、特に明るい「木星」で締める形を嫌い、「本当の作品では終わりは幸せではない」と語ったと娘イモージェンが伝えています。
- 1921年に詩「I Vow to Thee, My Country」に曲を付ける依頼を受けたとき、ホルストは疲れ切っていたが、詩が『木星』の旋律にうまく収まると分かって安堵した、とイモージェンが記しています。
- 平原綾香『Jupiter』は、ホルストの原曲に日本語詞を付けて歌うことを本人が提案して生まれました。作詞は吉元由美です。ホルストは1934年没で、2003年の時点で日本では原曲の著作権が切れていました。オリコン週間1位なしでデビュー曲が100万枚に到達したのは、倉木麻衣のデビュー曲以来7年ぶりでした。