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エリーゼのために
約3分のロンド形式の小品です。冒頭の半音の揺れが、一度聴けば忘れられない主題を作っています。
作曲の経緯
ベートーヴェンが39歳だった1810年4月27日付とされる小品です。主旋律の原型は1808年ごろ、交響曲第6番のスケッチ帳に16小節の旋律として書き留められており、後の形とは少し違っていました。1810年春には全曲の草稿(ボンのベートーヴェン・ハウス所蔵、BH 116)が書かれ、同じ紙に『エグモント』や行進曲WoO 19のスケッチがあることから時期が絞られます。1822年にはこの草稿に手直しが入り「12番」の番号が振られたため、バガテル集の最終曲にする構想があったらしいが、完成しませんでした。生前は出版されず、自筆譜は失われています。世に出たのは没後40年の1867年で、ルートヴィヒ・ノールが書簡集の中で紹介しました。ノールの説明では、楽譜はもともとテレーゼ・マルファッティの遺品で、のちにミュンヘンのバベッテ・ブレードルが持っていました。
出版・初演
生前は未出版です。1867年、ルートヴィヒ・ノール編『ベートーヴェン新書簡集』(シュトゥットガルト、コッタ社)に掲載されたのが最初です。初演の記録は未確認です。1822年稿は伴奏が大きく異なり、左手アルペジオが16分音符分ずれます。
題名・通称の由来
ノールが伝えた自筆譜の献辞「Für Elise(エリーゼのために)」によります。ただし原本は現存せず、Therese→Eliseの書き間違い説や、献辞を後の所有者が書き加えたとする説もあります。
構成分析
- A(Poco moto、イ短調、3/8) EとD#が揺れ動く有名な主題です。アルペッジョの伴奏とともに、問いと答えの形の8小節を作ります。9小節目から平行調をかすめ、属音Eを引き延ばして主題に戻ります。
- B(23小節〜、ヘ長調) 下属調側のヘ長調で始まり、主題の音形を少し装飾して示します。属調ハ長調へ転じ、32分音符の走句で終止を繰り返します。
- A(再現) 冒頭部がそのまま戻ります。
- C(59小節〜、主調) 主音の保続低音の上で、和音を激しく連打します。ナポリ和音をかすめ、76小節で完全に静止します。
- A(最終)と結び イ短調の上行アルペッジョと2オクターブの半音階下降を経て、A部が最後に回帰し、後奏なしで終わります。
音楽的特徴
ABACA型の5部ロンド、イ短調、3/8拍子です。冒頭の半音揺れ(E-D#)の音形で曲が識別でき、8小節ずつの対称構造は反復にも向きます。B・C両エピソードの旋律も冒頭の音高輪郭(上方隣接音から下降音階)を使い、全体に統一感があります。トリル、分散和音、オクターブ、トレモロ、連打音、3度・6度の重音、半音階など技法は多彩で、小品ながら練習曲的でもあります。版により7小節目の2つめの音がEかDかが異なります(ノール版はE、草稿に近い読みはD)。
演奏のポイント
ピアノ学習5年目前後の中級入門曲として知られます。旋律にオクターブの広がりがあり、小学校高学年程度の手の大きさが目安です。難所はBの32分音符走句とCの高速な上行アルペッジョです。冒頭の弱音の保ち方と、A部を毎回同じに聴かせない工夫が聴かせどころです。
この音源について(収録エピソード)
2019年発売のアルバムです。Gramophone誌によれば、腱炎の療養を経たランランの録音復帰作で、少年期に親しみ演奏家への情熱を育んだ小品を集めた内容です。楽譜付き商品として企画され、ランラン・ピアノ・アカデミーの教育企画の一環でもあります。『エリーゼのために』にはランラン自筆の演奏アドバイス入り楽譜が付くと紹介されています。同誌の評は、誇張とペダルの多用を指摘しています。
音源の投稿元(Topic/レーベル公式)はoEmbedで確認済みです。「未確認」は出典で確認できなかった項目です。
録音
実在と年を出典で確認できたもののみ掲載しています。
- マレイ・ペライア(年・レーベル未確認)
映画『不滅の恋人』(1995)の場面で使われた演奏としてTunefindに記載されています。演奏の特徴は出典で確認できませんでした。
映画・ドラマ・アニメ
- 不滅の恋人 (Immortal Beloved)(1995)
ベートーヴェンが甥カールに初見で弾かせ、続いて自分でも弾き始める場面です。
CM
- 日産スカイライン(7代目R31型クーペ)のCM。テクノ調アレンジ
1985〜1990年の販売期間内(放映年は未確認)
教科書・鑑賞教材
教科書・鑑賞教材での掲載を示す出典は確認できませんでした。
関連作品
- バガテル集 Op.33・Op.119・Op.126(「第25番」の通し番号は、これらを1〜24番とみなした数え方)
- 『エグモント』Op.84・行進曲WoO 19(草稿が同じ紙にスケッチを含む)
- ピアノソナタ第24番「テレーゼ」
- ポピュラー曲での引用例:「情熱の花」(1959、カテリーナ・ヴァレンテ)ほか
同じ作曲者の曲
トリビア
- ドイツ語の音名で「E-L-I-S-E」の文字を読むと、冒頭3音(E-D#-E)と対応するという指摘があります(Kopitz紹介の説)。
- 台湾ではごみ収集車の接近を知らせる曲として使われ、日本でも収集車や駅の接近メロディなどで耳にします。
- ノールが見たという自筆譜は現存せず、そもそも存在しなかった可能性まで論じる研究者もいます(反論もあります)。