手形と電子記録 — 支払約束を発生から決済まで追うの講義・例題
手形と電子記録 — 支払約束を発生から決済まで追うをオリジナル解説・例題・演習で学ぶ。日商簿記3級、2026年度範囲。
日商簿記3級 / 2026年度範囲(2027年3月31日まで) / オリジナル教材
約束手形は、期日に支払う約束
約束手形を振り出す会社は、記載された金額を支払期日に支払う義務を負います。通常の商品取引に用いる手形について、振出側は支払手形という負債、受取側は受取手形という資産を記録します。誰の帳簿を作るのか、振出人と受取人を先に確認しましょう。
他人振出しの小切手の受取りとは異なり、約束手形は受取時に現金勘定へ入れません。まだ期日に支払いを受ける権利であり、銀行へ入金されるのは決済時です。振出側が支払手形を計上することと、手形の紙を保有することは同じ意味ではありません。
商品売買と、既存の掛代金の切替えを区別する
商品を販売して約束手形を受け取るなら、借方 受取手形/貸方 売上。商品を仕入れて自社の約束手形を振り出すなら、借方 仕入/貸方 支払手形です。この教材の商品売買は三分法、消費税なしという条件を使います。
既に計上した売掛金の決済として手形を受け取った場合は、借方 受取手形/貸方 売掛金。買掛金を自社手形へ切り替えた場合は、借方 買掛金/貸方 支払手形です。新しい売上や仕入が生じたのではなく、既存債権・債務の形が変わったことを記録します。
期日に銀行で決済すると手形の残高が消える
受取手形の取立てが完了し、代金が銀行へ入金した時は、借方 預金/貸方 受取手形。振り出した手形の支払いが銀行で完了した時は、借方 支払手形/貸方 預金です。どちらも期日前の権利・義務を消す処理で、売上や仕入を再計上しません。
当社負担の取立手数料が額面から差し引かれたなら、額面=預金入金+支払手数料となります。手形の債権を額面で消し、手数料差引額だけが未回収として残ることはありません。本稿は正常に取立・支払いが完了する基本場面だけを扱います。
電子記録債権・債務も、元の取引と決済を分ける
電子記録によって発生する受取権利は電子記録債権、支払義務は電子記録債務として記録します。紙の手形と科目を混ぜません。売掛金から発生記録への切替えが完了したら、借方 電子記録債権/貸方 売掛金。買掛金から切り替えたら、借方 買掛金/貸方 電子記録債務です。
期日に銀行へ入金したら電子記録債権を貸方へ、銀行から支払ったら電子記録債務を借方へ置いて消します。発生記録の依頼をしただけか、完了して権利・義務が発生したかという時点も重要です。本稿は発生記録が完了していると明示し、譲渡等の上位取引は扱いません。
手形記入帳は一枚ごとの期限と顛末を追う
受取手形記入帳には受取日、手形番号、振出人、額面、満期日、取立てなどの顛末を、支払手形記入帳には振出日、手形番号、受取人、額面、満期日、支払などの顛末を記録します。「顛末」は、その手形が取立済み・支払済みになったかなどの結果です。
受取手形記入帳の未取立額面合計は、総勘定元帳の受取手形残高と照合します。支払手形記入帳の未払額面合計は、支払手形残高と照合します。全ての額面を合計するだけでは、既に決済した手形まで残高に含めてしまいます。未決済の件数や次の満期も確認して管理します。
顛末だけの漏れを二重仕訳で直さない
入金証拠、仕訳帳、総勘定元帳が正しく取立済みなのに、受取手形記入帳だけが未取立のままの場合、直すのはその手形の顛末です。新しい回収仕訳を足すと、預金を二重に増やし手形残高を過少にします。
不一致があるときは、どの手形か・どの帳簿まで記録済みかを特定します。本稿の調査問題はその証拠をすべて与えるので、差額だけを根拠に未知の原因を推測する必要はありません。
金銭の貸借に使う手形は、商品手形と区別する
約束手形を借用証書の代わりとして金銭を貸し借りする場合、貸した側は手形貸付金、借りた側は手形借入金を使います。商品販売の代金として受け取る受取手形、商品仕入れの代金として振り出す支払手形と目的が違います。
貸付時は借方 手形貸付金/貸方 預金、借入時は借方 預金/貸方 手形借入金。元本の回収・返済では逆方向にして消し、当期の利息を伴えば受取利息・支払利息を別に記録します。額面と入金額が違う割引等の応用処理は本稿に含めません。
例題
一枚の手形を二つの会社から見る
A社がB社から商品30,000円を仕入れ、代金の支払いとしてA社振出しの約束手形をB社へ渡した。三分法、消費税なし。
解き方と答え
- A社は商品を仕入れ、期日払いの義務を負う。借方 仕入30,000/貸方 支払手形30,000。
- B社は商品を売り、A社から期日に受け取る権利を得る。借方 受取手形30,000/貸方 売上30,000。
- どちらの会社でも、この手形の受渡しだけでは現金・預金は増減しない。
A社は支払手形、B社は受取手形。同じ手形でも会社側によって資産と負債が異なる。
既存の売掛金・買掛金を切り替える
得意先の売掛金24,000円について、その得意先振出しの約束手形を受け取った。別に、仕入先への買掛金18,000円について自社の約束手形を振り出した。
解き方と答え
- 受取側は借方 受取手形24,000/貸方 売掛金24,000。
- 振出側は借方 買掛金18,000/貸方 支払手形18,000。
- 掛代金を記録した売買とは別段階であり、売上・仕入は動かない。
売掛金が受取手形へ、買掛金が支払手形へ変わる。
額面と銀行入金の差は手数料
受取手形20,000円の取立てが完了し、当社負担手数料400円を差し引いた19,600円が当座預金へ入金。別に自社の支払手形15,000円が満期となり当座預金から支払われた。
解き方と答え
- 取立は借方 当座預金19,600・支払手数料400/貸方 受取手形20,000。
- 支払は借方 支払手形15,000/貸方 当座預金15,000。
手形債権・債務はそれぞれ額面全額が消える。収益・仕入を再度記録しない。
電子記録の発生から期日決済まで
売掛金28,000円を電子記録債権へ、買掛金16,000円を電子記録債務へ切り替える発生記録が完了した。後日それぞれ全額を普通預金で正常決済。手数料なし。
解き方と答え
- 発生時:借方 電子記録債権28,000/貸方 売掛金28,000。借方 買掛金16,000/貸方 電子記録債務16,000。
- 決済時:借方 普通預金28,000/貸方 電子記録債権28,000。借方 電子記録債務16,000/貸方 普通預金16,000。
- 発生時に預金は動かず、期日決済時に動く。
電子記録債権・債務は決済後ゼロ。普通預金の正味増加12,000円。
二つの記入帳を残高へつなぐ
月末の受取手形:R1額面10,000円は取立済み、R2額面15,000円とR3額面20,000円は翌月以降満期で未取立。支払手形:P1額面12,000円は支払済み、P2額面18,000円は翌月満期で未払。総勘定元帳は受取手形35,000円、支払手形18,000円。
解き方と答え
- 受取の未取立はR2とR3の2件、額面合計35,000。取立済み10,000は残高から除く。
- 支払の未払はP2の1件、18,000。支払済み12,000は除く。
- 未決済合計がそれぞれ総勘定元帳と一致する。
受取手形35,000円(2件)、支払手形18,000円(1件)で両元帳と一致。
取立済みの顛末だけが漏れた
R1額面10,000円は銀行入金、仕訳帳、総勘定元帳で取立済み。未取立のR2額面15,000円だけが総勘定元帳に残る。受取手形記入帳ではR1にも未取立とあり、合計25,000円となっている。
解き方と答え
- 証拠上R1は既に決済済みなので、記入帳のR1を取立済みへ修正する。
- 修正後の記入帳残高は15,000。預金と総勘定元帳の受取手形は元から正しいため変更しない。
新しい仕訳は不要。顛末修正だけで15,000円へ一致する。
金銭貸借に使う手形の勘定
借用証書の代わりに約束手形を振り出し、50,000円を借りて普通預金へ受け取った。別に、相手の約束手形を借用証書代わりに受け取り、40,000円を普通預金から貸した。後日、先の借入元本50,000円と当期利息500円を返した。
解き方と答え
- 借入時は借方 普通預金50,000/貸方 手形借入金50,000。
- 貸付時は借方 手形貸付金40,000/貸方 普通預金40,000。
- 元利返済は借方 手形借入金50,000・支払利息500/貸方 普通預金50,500。
手形の形式があっても、目的が金銭貸借なら商品手形の勘定にしない。
間違えやすいところ
- 小切手と約束手形を同じ現金扱いにしない。
- 既存の売掛金・買掛金を手形へ切り替えるとき、売上・仕入を二重に計上しない。
- 受取手形記入帳の総額から取立済みを除かず残高としない。
- 紙の手形、電子記録、金銭貸借用手形の科目を混ぜない。
採点と記録にはJavaScriptを使います。配点はこの教材独自のものです。
