工業簿記の入口 — 原価の分類と、材料から売上原価までの講義・例題
工業簿記の入口 — 原価の分類と、材料から売上原価までをオリジナル解説・例題・演習で学ぶ。日商簿記2級・工業簿記、2026年度範囲。
日商簿記2級・工業簿記 / 2026年度範囲(2027年3月31日まで) / オリジナル教材
3級の知識に「作る途中」を足す
商品を仕入れてそのまま販売する取引に対し、製造業では材料を加工して製品を作ります。購入した材料、作りかけの仕掛品、完成した製品は、それぞれどこまで製造が進んだかを示す資産です。売れた製品に対応する原価を売上原価へ移します。
資産の増加は借方、減少は貸方という3級の基本は同じです。「支払ったからすべて費用」「完成したからすべて売上原価」ではありません。この章では正常な製造の基本だけを学び、税金、仕損・減損、原価差異は扱いません。
分類には違うものさしがある
材料費・労務費・経費は、何を消費したかという分類です。直接費・間接費は、特定の製品にいくらかかったかを直接把握できるかという分類。固定費・変動費は、一定期間・一定の操業範囲内で、生産量などが変わったときに総額がどう変わるかという分類です。
直接費だから必ず変動費、間接費だから必ず固定費、ではありません。同じ原価を違う軸で分類できます。どの製品・期間・操業度を基準にするか、問題の条件から読み取ります。
材料費・労務費・経費は「何を使ったか」
製造に使った物品の消費は材料費、製造のために使った人の労働は労務費、それ以外の製造原価は経費に分けます。木材の消費、製造作業に従事した従業員の賃金、工場設備の減価償却などを、名前ではなく内容で判断します。
ここでいう経費は製造原価の費目名です。「経費という名前だから、発生した月の損益計算書に全部載る」とは限りません。製品にかかった正常な製造経費も、未完成・未販売の分は仕掛品・製品の原価に含まれます。
製造・販売・全社管理は「何のためか」
工場で製品を作るための消費は製造原価。製品を売る活動の費用は販売費。会社全体を管理する費用は一般管理費です。この章では販売費と一般管理費を合わせて販売費及び一般管理費(販管費)と呼びます。
同じ給料でも、工場の製造担当者、営業担当者、本社の経理担当者では機能が違います。工場・営業・本社が同じ建物を共用するような配分問題は扱わず、用途を問題に明記します。
直接・間接は「この製品の分と追えるか」
この章では特定の製品への追跡を基準にします。材料の払出記録や製品別作業記録などから、その製品に使った額を直接把握する原価が直接費。複数製品に共通に生じ、この会社では製品別に直接把握しない原価が間接費です。
間接費が製品の原価にならないわけではありません。後続章で学ぶ合理的な基準による配賦が必要になります。この章の金額問題では、必要な集計や配賦は正しく済んだ額を与え、配賦率の計算はまだ求めません。
変動・固定は「範囲内の総額がどう動くか」
一定期間・一定の操業範囲を前提に、生産量に比例して総額が変わるのが変動費、総額が変わらないのが固定費です。変動費の単位当たり額は一定、固定費の単位当たり額は生産量が増えるほど小さくなります。
固定費でも工場を増設するほど規模が変われば総額は変わり得ます。電力料に基本料金がある場合なども、費目名だけで一定の型に決めつけません。問題に示した期間・操業範囲・料金条件を用います。
購入・支払と、原価の発生・費用化を分ける
材料を買えば材料という資産が増え、製造に使えばその分が製造原価になります。掛けで買ってまだ支払っていなくても、使った材料には原価が発生します。逆に支払済みでも未使用の材料は在庫です。
製造原価を集めた仕掛品が完成すれば製品に移り、販売した分の製品原価が売上原価になります。この章は正常な製造原価を製品に含める基本の計算です。販管費は製造中・未販売の製品へ入れず、その期間の費用として扱います。
勘定の流れを二つの箱で検算する
仕掛品について、月初仕掛品原価+当月製造原価=当月完成品原価+月末仕掛品原価です。製品について、月初製品原価+当月完成品原価=売上原価+月末製品原価です。左右どちらにも「どこから来て、どこへ行ったか」があります。
在庫は売価ではなく原価で与えます。売上総利益は売上高−売上原価、営業利益は売上総利益−販管費。未完成・未販売の原価をすべて当期費用として引くと、この区分を崩してしまいます。
完成と販売で仕訳する日を分ける
完成した原価を移す仕訳は、借方 製品/貸方 仕掛品です。完成だけでは売上を記録しません。
販売時は、売価の取引(たとえば借方 売掛金/貸方 売上)と、売れた製品の原価の振替(借方 売上原価/貸方 製品)を区別します。売価と原価は通常別額です。問題で「原価振替だけ」と指定したら売上の仕訳を重ねて入力しません。
例題
現物の状態と勘定を結ぶ
机を作る工房に、まだ加工していない木材、組立途中の机、完成した未販売の机がある。この章では材料・仕掛品・製品の各勘定を用いる。
解き方と答え
- 未加工で保管中の木材は材料。作りかけの机は仕掛品。完成済みでまだ売っていない机は製品。
- 販売した机の原価は、製品から売上原価へ移る。販売価格は売上であり、原価とは別の金額。
材料→仕掛品→製品→売上原価。完成と販売は別の境目です。
費目の分類と機能の分類を混ぜない
木工会社の当月資料は、製造に使った木材20,000円、製造作業に従事した従業員の賃金30,000円、工場機械の減価償却5,000円、営業担当者の給料12,000円、本社経理担当者の給料8,000円。後二者は製造作業を行わない。
解き方と答え
- 製造の3費目は、木材20,000が材料費、製造従業員賃金30,000が労務費、機械減価償却5,000が経費。製造原価は55,000。
- 営業給料12,000は販売費、本社経理給料8,000は一般管理費。販管費合計20,000を製造原価に加えない。
何を使ったかという費目と、製造・販売・管理という機能を別々に読む。
同じ副資材でも、記録条件が違う
接着剤について、A製品専用分は注文別に使用量と金額を記録している。共用品は複数製品で使い、この会社では製品別の使用額を直接把握していない。
解き方と答え
- A製品の使用額を直接把握する専用分は直接費。
- 製品別に直接把握しない共用品は間接費で、後で配賦の対象となる。
接着剤という名前だけで一律に決めず、この会社の製品別記録条件を見る。
総額と1個当たり額を行き来する
当月の操業範囲100〜200個では、材料消費額が1個当たり300円、工場賃借料が月額60,000円である。100個と200個の生産を比べる。
解き方と答え
- 材料費総額は100個で30,000、200個で60,000。1個当たりはいずれも300。
- 賃借料総額は両方60,000。1個当たりは100個で600、200個で300。
変動費は総額が変わり単位額は一定、固定費は総額が一定で単位額が変わる。
直接か間接かと、固定か変動かを分ける
A製品のためだけに借りた専用金型の月額賃借料40,000円。契約上、当月の生産量が100〜200個なら総額40,000円で変わらず、A製品に全額を直接把握できるものとする。
解き方と答え
- A製品に全額を直接把握できるので、直接費。
- 指定の操業範囲内で月額総額は変わらないので、固定費。
- 製造に使う金型の賃借料なので、材料費・労務費以外の経費に当たる。
この条件では直接費かつ固定費。直接費=変動費と暗記しない。
未払いでも、使った材料には原価が発生する
月初の材料・仕掛品・製品はいずれも0。材料50,000円を掛けで購入し、そのうち30,000円を製造へ使った。すべて直接材料で、出来上がった製品はなく、材料以外の製造原価はないという学習用モデル。代金は未払い。
解き方と答え
- 購入時は借方 材料50,000/貸方 買掛金50,000。材料購入は直ちに全額の売上原価ではない。
- 使用時は借方 仕掛品30,000/貸方 材料30,000。未使用材料は20,000。
- 支払額は0でも、当月発生した製造原価は30,000。全部未完成なので仕掛品30,000として残り、売上原価は0。
支払0、材料在庫20,000、製造に使った原価30,000、仕掛品30,000を区別する。
仕掛品と製品を順に計算する
月初仕掛品18,000円、当月製造原価102,000円、月末仕掛品20,000円。月初製品12,000円、月末製品22,000円。売上高140,000円、当月販管費26,000円。原価集計・配賦と在庫評価は正しく済み、異常な損失等はない。
解き方と答え
- 当月完成品原価=18,000+102,000−20,000=100,000。
- 売上原価=12,000+100,000−22,000=90,000。
- 売上総利益=140,000−90,000=50,000。営業利益=50,000−26,000=24,000。
- 月末に残る仕掛品20,000と製品22,000は資産。販管費26,000をこの在庫へ混ぜない。
完成品原価100,000円、売上原価90,000円、営業利益24,000円。
完成の振替と販売の振替
注文品が原価30,000円で完成し、その後48,000円で掛け販売された。完成原価は既に正しく集計済み。消費税は考慮しない。
解き方と答え
- 完成日:借方 製品30,000/貸方 仕掛品30,000。完成して資産の区分が変わる。
- 販売日・売価:借方 売掛金48,000/貸方 売上48,000。
- 販売日・原価:借方 売上原価30,000/貸方 製品30,000。
- 売価48,000と原価30,000を区別し、完成日に売上を先取りしない。
完成では製品へ、販売では売上原価へ移す。
間違えやすいところ
- 購入・消費・完成・販売を同じ出来事として扱わない。
- 直接/間接の分類軸と、固定/変動の分類軸を取り違えない。
採点と記録にはJavaScriptを使います。配点はこの教材独自のものです。
